デヴィッド・ボウイ、(イーグルスの)グレン・フライ、(アース・ウィンド&ファイアーの)モーリス・ホワイト・・・今年に入り、時代の音楽を築いた大物ミュージシャンの訃報が相次いでいる。
歌は世につれ世は歌につれ。音楽は世の鏡ともなる。
ダウンロード、ストリーミング、と、聴き方そのものが移ろいつつあるいま、音楽と「時の世」の関係が見えにくくなってきている。それでも、後から顧みる時、頼りとするであろうものは、「ヒットチャート」そして「賞」。中でもグラミー賞だろうか。
そんなグラミー賞で、今年、「最優秀アルバム」「最優秀楽曲」「最優秀ラップアルバム」など最多11部門にノミネートされたのがケンドリック・ラマー。
物語を紡ぐラマーのアルバム
その音楽は、ロサンゼルス郡南部に位置し、治安の悪さは米国でも指折りのコンプトン市という出自が生み出す。
ラマーのアルバムは物語を紡ぐ。前作「good kid, m.A.A.d city」は「A Short Story by Kendrick Lamar」と記されていた。そこにあるのは、暴力、麻薬、差別、そして怒り。最新アルバム「To Pimp A Butterfly」のジャケットには、ホワイトハウスの前に、酒と札束を持った様々な黒人の姿がある。現状ばかりでなく、黒人の歴史にまで言及する。
アルバムは同じコンプトン出身のドクター・ドレーのレーベルからリリースされている。
昨年末日本公開となった『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015)は、ドクター・ドレーが、アイス・キューブ、イージー・Eなどと、コンプトンで結成し、「世界一危険なグループ」と呼ばれた伝説のギャングスタ・ラップ・グループN.W.A.の物語。アイス・キューブには実子のオシェイ・ジャクソン・Jr.が扮している。
麻薬と銃、そして警官の黒人への理不尽な暴力に満ちた街の現実を音楽で伝え、成功へと向かう。その一方で、ヒットしても必ずしもミュージシャンが潤うとは言えない音楽ビジネスの現実がある。
そして、ロドニー・キング事件から1992年のロス暴動へと向かう様子と、アイス・キューブ、ドクター・ドレーが脱退、イージー・Eと対立する姿が、パラレルに展開していく。
こうしたラップの肝は、言葉のメッセージ性や韻(ライム)。だから、非英語圏では、曲の良さも主張も伝わりにくい。そして、スタイルが先行してしまう。