黒沢明監督の「七人の侍」(1954年公開)は、クロサワ映画の最高傑作とも謳われ、その後の欧米の映画作品にも多大な影響を与えている。緻密な人物描写と共に世界の注目を集めたのは、迫真の立ち回り(=殺陣)シーンだ。

 最近でも、トム・クルーズ主演「ラスト サムライ」(2003)、クエンティン・タランティーノ監督「キル・ビル」(2003)などハリウッドのヒット作で、刀を使ったアクションが見せ場になっている。

 「ならば、日本の伝統芸である殺陣をアメリカの観客に生で見せてやろう!」――そう意気込み、ロサンゼルスで時代劇に取り組んでいる人たちがいる。

ハリウッド初の時代劇アクション

「UTSUTSU―現―」は、ハリウッドのBarnsdall Gallery Theaterにて計6回の公演を予定している(写真は2008年11月、東京公演のもの)

 ロサンゼルス在住の演劇プロデューサー山北龍二さんは、2009年12月に劇団IKI(粋カンパニー)を設立。「ハリウッド初の時代劇アクション」を掲げ、自ら主演する舞台劇「UTSUTSU─現─」の11月の上演を目指して準備を進めている。

 「UTSUTSU─現─」は、ヤクザの用心棒である剣の達人が視力を失い、絶望から立ち直り、弱者を助ける英雄に成長するまでを描いている。どこか、座頭市の誕生秘話であるかのようなストーリー立てだ。

 人間ドラマの要素もさることながら、最大の見せ場となるのは、本格的な殺陣のシーンだ。日本映画界の第一線で活躍する殺陣師(スタントコーディネーター)の田渕景也さん=「十三人の刺客」(2010)、「のぼうの城」(2011)などの殺陣を指導=が、アクション面での演出をサポートしている。

ロサンゼルスのキャストに殺陣を指導する田渕景也さん(写真左)

 IKIが目指す殺陣は、本気の斬り合いだ。「美しく刀をさばくだけでは気持ちが伝わらない。斬り殺すつもりで振りぬかないとダメなんです」と山北さんは言う。かつて京都太秦の撮影所で修業した時にたたき込まれた“ギリギリまで打ち込む”スタイルにこだわっているのだ。

 役者に殺陣の基本をみっちりたたき込むため、稽古は公演が始まる半年以上も前(2010年4月)にスタートした。出演者の1人で、ロサンゼルス在住の役者、池田直之さんは、「人によって打ち込む間合いが違う。だから共演者の癖が分かるまで何度も練習しないといけない」と、その難しさを語る。