年明けと同時に、麻生政権の迷走が始まった。昨年は高額所得者が定額給付金を受け取ることを「さもしい」と発言した麻生太郎首相だが、新年早々これを撤回。発言のブレはどうにも止まらない。報道機関各社の内閣支持率は相次いで2割を切り、自民党内には「やはり麻生首相では選挙を戦えない」という動揺が広がっている。(敬称略)
総額2兆円の定額給付金を盛り込んだ2008年度第2次補正予算案や2009年度予算案の早期成立を図るため、通常国会は異例の1月5日に召集された。夫婦・子ども2人の家族で6万4000円(1人1万2000円、65歳以上と18歳以下はプラス8000円)の定額給付金を年度内に支給することは、内閣の最優先課題だ。麻生は「2次補正を年度内に通せ。それが第一だ」と周辺に檄を飛ばしていたという。
その定額給付金をめぐり、政府・与党の迷走が再び鮮明になったのは翌6日のこと。政府・与党連絡会議で自民党幹事長・細田博之や公明党幹事長・北側一雄が「国会議員も定額給付金を受け取るべきだ」との考えを示すと、河村建夫官房長官も記者会見で「消費振興と内需拡大を図る狙いははっきりしている」と自らも受け取る意向を表明した。
与党幹部らは既に4日夜の会談で、給付金受給で首相や閣僚の対応が食い違えば、野党の攻撃材料となると懸念。閣内統一を図るべきだとの認識で一致していた。また、政府は所得制限を設ける場合の基準を1800万円以上としていたが、事実上これを撤回した。
一方、麻生は昨年12月に「1億円も収入のある人はもらわないのが普通。人間の矜持の問題」と、自らを含め高額所得者は受給を辞退すべきだとの見解を示していた。このため、年明けの麻生は自らの受け取りについて、過去の発言に矛盾しないよう、「今はまだ判断している段階ではない」と明言を避けるしかない。麻生に批判的な元幹事長・中川秀直はすかさず、「(発言の)迷走は否定できない」と指摘した。
8日の衆院予算委員会では、民主党代表代行・菅直人が麻生の給付金をめぐる発言のブレを厳しく追及。これに対し、麻生は景気刺激のためには「高額所得者がもらった場合は盛大に消費していただくのが正しい」と開き直った。13日の衆院財務金融委員会では、「さもしい」発言も撤回した。
憲法の規定により、予算案は衆院通過後30日経てば自然成立する。しかし、予算関連法案は野党多数の参院で採決が引き延ばされれば、衆院通過後60日経過しないと、「3分の2」の多数による衆院再可決ができない。政府・与党が1月13日の衆院本会議で2次補正予算案と関連法案の採決を強行し、与党の賛成多数で衆院を通過させたのは、年度内に定額給付金を支給したいためだ。年度内にすべて支給するのは困難だが、まずは3月14日以降に2次補正関連法案の再議決が可能となり、政府・与党としては1つのヤマを越えた。