世界各地から絶えまなく入ってくるニュース。しかし、「日常とはかけ離れた世界の惨状」の現実感は薄く、頭を素通りする。断片的で全体像が見えてこないことも少なくない。「専門家」の解説もピンとこない。
そんな時、映画が役立つことがある。
フィクションであり、100%の事実でなくとも、感情移入できる登場人物の存在が、理解を、記憶を、強化する。そんな存在とともに、今年の世界を振り返ってみることにしよう。
1月、「シャルリー・エブド」襲撃、11月、同時テロ。パリで起きた2度のテロ事件は先進国の都市生活者に衝撃を与えた。そして、IS(イスラム国)による日本人拘束殺害、バルドー博物館銃撃事件でも日本人が犠牲に・・・。
中東情勢がよく分かる映画
決して無縁ではないのだが、なかなか中東情勢が実感できない。歴史はもとより、「いま」も感じにくい。
そんなとき、『シリアナ』(2005)が役立つかもしれない。
CIA(米中央情報局)工作員、王位継承争いをする親イラン・反米の架空の小国「シリアナ」王子たち、3K仕事担当の南アジアからの出稼ぎ労働者、エネルギーアナリスト、国際石油資本、企業弁護士などの物語が、イランの宗教色を排し石油利権を奪いたい米国、既存の欧米資本に割り込む中国、さらには、枯渇していく化石燃料、宗教原理主義、自爆テロ、ドローン爆撃、といった要素をも交え、展開していくのだ。
根までたどれば、一神教の原点まで行きつくが、より直接的な「いま」につながる事件ともなれば『アラビアのロレンス』(1962)の物語となる。
末期オスマン帝国が掲げるジハードと民族自決との間で揺れるアラブ人に英国は独立支持を示し、ともにロレンスは第1次世界大戦を戦った。しかし、裏には、ユダヤ人のパレスチナ国家建設支援、英仏露による分け前配分まで存在する三枚舌外交だったのである。
ロレンスの物語の1つの終着点シリアは、第1次世界大戦後、フランス委任統治領となった。そして、第2次世界大戦後独立した国は、今、内戦が泥沼化。ISに手を焼く欧米諸国が空爆を強化、行き場を失った市民の多くが欧州へ向かっている。