2017年4月に10%に引き上げられる予定の消費税率をめぐって、政治的な駆け引きが活発化してきた。

 公明党が食品などに幅広く軽減税率を求める一方、財務省は難色を示している。安倍首相は財務省に近いとみられる自民税調の野田毅会長を更迭し、公明党に理解を示す宮沢洋一氏を会長にして導入の方向を示した。

 これは低所得者も同じ税率を負担する消費税の逆進性を是正するというのが建て前だが、TPPに反対する農家への「国内対策」という面もある。これに悪乗りして新聞協会も軽減税率の適用を求めているが、これに賛成する経済学者は、私の知る限り1人もいない。軽減税率がこれまで導入されたEU(欧州連合)などでは、大混乱になっているからだ。

消費税は逆進的か

 まず議論の出発点になっている「消費税は逆進的だ」というのは本当だろうか。よく言われるのは「貧しい人のほうが所得を貯蓄しないで消費するので、定率の消費税は所得に対して逆進的だ」という議論だが、人々は行き当たりばったりに消費しているわけではない。

 生涯を通して消費を考えると、現役のとき貯蓄した人も引退するとそれを取り崩して消費するので、生涯を通じての貯蓄率は所得階層によって大して変わらない。実証研究でも、消費税は生涯所得に対して累進的である。

 したがって「逆進性を解消する」という目的がそもそもおかしいのだが、「貧しい人でも食品などの必需品の消費量はあまり変わらないので、税率を軽減すべきだ」というのが公明党などの論理である。

 たしかにエンゲル係数(所得に占める食費の比率)は低所得層の約25%に対して高所得層は約20%だが、高所得層のほうが消費税の支払い額は多い。食品に軽減税率を適用すると、負担が大きく減るのは高所得層なのだ。

 さらに所得税の捕捉率は低く、特に高所得者ほど租税逃避などのテクニックを使えるので、所得税には不公平が大きい。消費税にも不公平がないわけではないが、これから(非課税の)年金生活者が増える中で、消費に課税することは課税ベースを広げる上で重要だ。