2013年にハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーが、自分の遺伝子から乳がんリスクを知り、乳房の切除手術を行ったことは記憶に新しい。最近では、ベンチャー企業や大手IT企業が、遺伝子を調べるキットの販売を始めている。
このように、自分の遺伝子を調べることは一般に「遺伝子検査」と呼ばれている。しかし、遺伝子検査という用語は、方法や目的が異なるものが混合されて使われており、中身が誤解されやすい状況となっている。
そこで本記事では、遺伝子検査と呼ばれているものにはどのような種類があるのか明確にしたうえで、特にインターネットや店舗で簡単に申し込みができるものにおける規制の現状について考えたい。
インターネットで注文するものは「検査」ではなく「サービス」
本来、遺伝子検査という言葉は、細菌やウイルスなどの病原体を特定するための検査方法である。がん細胞など、体の病変部の細胞でどの遺伝子が変化(変異)しているのかを調べるときにも、遺伝子検査という言葉が使われる。つまり、病気を引き起こす病原体、もしくは遺伝子が変異した病変部の細胞のみを調べる。したがって、ここで調べる遺伝子は、子どもに受け継がれることはない。
一方、アンジェリーナ・ジョリーが調べた遺伝子変異は、全身の細胞全てがもっているものである。この変異は親から受け継がれたものであり、子孫にも受け継がれる可能性がある。
アンジェリーナ・ジョリーの場合、乳がんの発症リスクと大きな関係がある「BRCA1」という遺伝子を調べ、乳がんの生涯発症率が87%になる変異が見つかった。そこで、乳がんになっていない乳房を予防的に切除したのである(この遺伝子変異は卵巣がんにも関わっており、彼女は2015年3月に卵巣も摘出した)。
このように、病気の発症リスクを知るために遺伝子を調べることを、正確には「遺伝学的検査」と呼ぶ。他にも、薬の副作用に関わるものや、犯罪捜査で行われるDNA鑑定も、遺伝学的検査に含まれる。