高層ビルの建設が進むホーチミン市内(筆者撮影、以下同)

 今回は新興国のビジネスリスクシリーズ第3回として、日本企業の進出拡大傾向が顕著なベトナムを取り上げる。

中国と同様に社会主義体制と市場経済が共存

 まず、ベトナムの概要から見ていこう。

 ベトナム社会主義共和国の面積は約33万平方キロメートルで、日本の九州を除いた面積とほぼ同じ面積を有している。人口は約9345万人で、ASEAN諸国10カ国中、3番目の規模となっている。人口は今後も増加を続け、2023年には1億人を突破し、2044年には日本を追い抜くと予測されている。

 ベトナムの主要民族はキン族(85.7%)で、その他50以上の少数民族を有する多民族国家となっている。宗教については1999年の国勢調査では、仏教9.3%、キリスト教(カソリック)6.7%、無神教80.8%などとなっているが、実際には仏教徒が全体の8割以上を占めるとされている(民族および宗教に関する数値は1999年の国勢調査に基づく)。

 ベトナムは国家として樹立された15世紀以降、中国、その他隣国との紛争・内乱が続き、19世紀に入ってからはフランスによる植民地支配、第2次世界大戦時は日本軍による軍政が敷かれた。その後も、フランスからの独立戦争、ベトナム戦争、中越戦争、カンボジア侵攻が続いた結果、これらに伴う影響も小さくない(インフラの未整備、裾野産業の未成熟、管理職世代の不足など)。

ホーチミン市内にある統一会堂(旧南ベトナム共和国大統領宮殿)

 ベトナムの政治体制は社会主義および共産党一党独裁体制であるが、1986年に開始された「ドイモイ」(「刷新」の意味)政策により市場経済の導入が進められている。

 ドイモイ政策は近年の急速な成長を実現させたが、社会主義体制と市場経済の共存は、官僚主義の弊害、公務員による汚職など、中国と同様の問題を引き起こしている。また、ドイモイ政策により積極的な外資導入を進めた結果、近年では中国への一極集中を避けたい企業により「チャイナプラスワン」としてベトナムが選択されることが多い。