韓国でのMERS感染の拡大は、私たちが常に新しい感染症の脅威と立ち向かう必要があることを思い起こさせてくれる。MERSについては日本への感染拡大を防ぐために監視体制が強化されており、おそらく感染拡大を未然に防ぐことができるだろう。

 一方で、国内にはすでに「SFTS」という新しい感染症の脅威が増大している。この感染症はマダニが媒介するので、シカ・イノシシなどの野生動物の増加が、感染拡大に結び付く。今回の記事では、SFTSのような野生動物が運ぶ感染症の脅威への対策について考えてみよう。

死亡率30%の新興感染症SFTSとは?

 SFTS(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome重症熱性血小板減少症候群)は、2009年に中国で報告された新しい感染症である。わが国では2013年1月に初めてその感染者が確認された。

国立感染症研究所の統計によれば、2013年以来、九州・中国・四国・近畿地方で122人の患者が報告され、うち34人が亡くなられている(2015年5月31日現在)。怖い病気だ。潜伏期は6~14日、発症すれば発熱、下痢、嘔吐などのほか、血小板や白血球が急激に減少するという症状があらわれる。

 SFTSはMERSやインフルエンザと同様に、ウイルスによる病気である。ウイルスには抗生物質が効かないので、多くのウイルス病と同様にSFTSには有効な治療法がない。インフルエンザの場合には、タミフルという抗ウイルス薬が開発されているが、SFTSやMERSなどの他のウイルス感染症の場合、有効な抗ウイルス薬は開発されていないのが現状だ。このため、SFTSやMERSに感染した場合には、水分・イオン・栄養を補給し、安静にして免疫力がウイルスを抑え込むのを待つという地道な治療法が基本になる。