為替が再び円安に動き始めた。長期的に見て円安傾向というのが大方のコンセンサスではあったが、短期的にはむしろ円高になると考えていた市場関係者も多く、急激な円安の進行は市場を動揺させた。
今後の展開については見解が分かれているが、米国の景気回復が確実になりつつあることや、日本経済がインフレ体質に転換したこと、さらにはドル円相場の歴史的な節目の水準を突破したことなどから、長期の円高トレンドが終了したとの見方が広がってきている。短期的には円高への巻き戻しがあるかもしれないが、国際的な資金の流れが大きく変わった可能性について認識しておいて損はないだろう。
特に大きなイベントはなかったが・・・
今回の円安は、特に何の前触れもなく始まった。目立ったイベントや指標の発表がなかったことから、準備不足だった投資家も多かったと考えられる。
為替市場は2015年に入ってから、しばらく1ドル=120円前後を行き来するボックス圏相場が続いてきた。ところが5月20日を境に円は下落を開始し、26日にはさらに円安が加速、一時は1ドル=123円33銭と約8年ぶりの安値水準となった。その後、1ドル=125円80銭まで進んだものの、日銀の黒田総裁による円安は行き過ぎとの発言もあり、多少値を戻した状態にある。
マクロ的に見れば米国経済は好調であり、中長期的にドル高が続くと見る投資家が大勢を占めていた。ところが厳冬の影響などから、1~3月期のGDPは年率換算でプラス0.2%と思いのほか低い結果にとどまった(その後改定値でさらにマイナス0.7%に下方修正)。このため一部の投資家は、米国の成長が一旦踊り場となる可能性を意識するようになり、市場では、ドル高見通しと一時的なドル安見通しが交錯する状態となっていたのである。