今年の11月末から、パリでCOP21(気候変動枠組条約締約国会議)が開かれる。これに向けて、EU(欧州連合)は二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量を2030年までに1990年比で40%削減するという目標を出し、アメリカも2005年比で26~28%という削減目標を出した。

 しかし日本はいまだに削減目標が出せない。CO2を減らす上で重要な原発の運転の見通しが立たないからだ。経済産業省や環境省はCO2排出量を2013年比で20%前後削減するという目標を打ち出す方向で調整に入ったが、今のままでは実現不可能だ。

CO2を削減すると成長率は下がる

 今後15年で20%もCO2排出量を削減するためには、化石燃料の消費をそれ以上に減らさなければならない。今は日本の電力構成のうち化石燃料は88%。2013年の排出量は1990年比で10.6%も増えた。

 CO2排出量を減らす方法は3つしかない。エネルギー節約と再生可能エネルギーと原子力である。このうち省エネでは日本は世界一の先進国であり、これ以上CO2排出量を減らすには、工場の操業を制限するとかCO2を除去する設備を義務づけるなどの高コストの方法しかない。

 もう1つの方法は、太陽光や風力などの再生可能エネルギーだ。しかし2014年度に申請された再エネがすべて稼働すると、固定価格買取制度(FIT)の賦課金は20年間で30兆円以上になる。「原発ゼロ」を決めたドイツでは、FITが始まってから電気代は2倍になり、さすがに制度の見直しが始まった。

 おまけに再エネで火力発電所は増える。夜間や雨の日のバックアップのため、今後ドイツでは17基の石炭火力発電所が新設される計画だ。しかもその多くは、質が悪く大気汚染がひどく、CO2も大量に出す褐炭である。脱原発によってドイツの環境は悪化すると懸念する声が強い。

 杉山大志氏(IPCC統括執筆責任者)の計算によると、こうした高コストの方法でCO2を1%減らすには、日本経済全体で約1兆円のコストがかかるという。20%削減するには20兆円かかる。これから人口減少でマイナス成長になると予想される日本で、GDPをさらに4%も下げることに国民の合意は得られるのだろうか。