日本の組織に共通の欠陥は、問題の先送りである。その最大の失敗として知られるのが、日米戦争だ。誰もがおかしいと思いながらずるすると泥沼に引きずり込まれ、前例に前例が重なって大きな判断を先送りしているうちに、誰も望まなかった結果になった。

 最近では1990年代の不良債権問題でも、90年代前半には10兆円程度だった損害が、先送りしている間にどんどん大きくなり、小泉首相が最終処理したときは100兆円を超えた。

 こうした欠陥は今も受け継がれている。その典型が原子力行政である。

なぜ原発が止まっているのか誰も説明できない

 九州電力の川内原発(鹿児島県)の運転再開は、予定を大幅に超えて2015年夏にずれこむ見通しになった。原子力規制委員会が安全審査を開始してから、ほぼ2年で2基だ。このペースだと、全国48基の原発の審査がすべて終わるには20年以上かかる。

 それまで原発を止め続けると、化石燃料の浪費で最大55兆円が失われる。川内では地元の合意は得られたが、政府は積極的に動く様子がない。安倍内閣は「安全性を確認した原発は再稼働を認める」という方針だが、具体的に何をするのだろうか。

 実は、何もすることはない。2014年2月21日に閣議決定された答弁書で、政府は「発電用原子炉の再稼働を認可する規定はない」と答えている。規制委員会が再稼働を認可する規定はないのだから、内閣がそれを許可することもできない。

 川内原発の例で言えば、規制委員会の審査が終われば、九州電力の判断で運転できる。現に2013年に関西電力大飯原発を再稼働したときは、規制委員会の審査も地元の同意もなしに動かした。法的には、今でも全国の原発が再稼働できるのだ。

 では、なぜ全国の原発が止まったままなのだろうか。それは誰も説明できない。原子炉等規制法には「停止命令」の規定があるが、停止命令は一度も出ていない。「再稼働」という問題設定が間違いで、そもそも止める法的根拠がないのだ。