福島第一原発事故から3年たっても、エネルギー政策をめぐる混乱が続いている。全国の原発が民主党政権の行政指導で止められたまま、運転再開の目途が立たない。これまで電力会社はLNG(液化天然ガス)火力発電所を増設してしのいできたが、これは設備投資は安いが燃料費が高い。

 そこで電力各社は、石炭火力発電所の増設を計画している。東京電力は260万キロワットの石炭火力を建設し、関西電力と中部電力と東北電力も100万キロワット以上の石炭火力の新設を計画している。石炭の燃料費は石油やLNGに比べて圧倒的に安く、原子力のような厄介な政治的リスクがないので経営合理的だが、それでいいのだろうか。

石炭は環境に最悪の燃料

 先週起こったトルコ西部ソマの炭鉱事故で、死者は301人にのぼり、トルコ史上最悪の鉱山事故になった。しかし中国では毎週のように炭鉱事故が起こっていると言われ、年間約8万人という推定もある。中国政府は「中国の死者が世界の79%だ」と発表しているので、世界の炭鉱事故の死者は10万人ということになる。

 WHO(世界保健機関)は「全世界で大気汚染で毎年約700万人が死んでいる」という推定を発表した。これまでは320万人とされていたが、最近、中国の大気汚染がひどくなって死亡推定人数が倍増した。

 中国では、PM2.5(小粒子物質)汚染で年間100万人以上が死亡しているとも言われ、政権をゆるがしかねない状況になっている。日本の石炭火力はクリーンだと言われるが、毎年1.23トン(約2000人分の致死量)以上の水銀が石炭火力から大気中に排出されている(環境省調べ)。

 ここには地球温暖化のリスクは含まれていない。これでどういう被害が出るかははっきりしないが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の予測によると、大雨や洪水や干ばつなどの異常気象が増え、海面が数十センチ上がると予想され、その被害は2100年までに1兆ドル以上と言われている。

 世界の専門家の意見は「石炭は環境にとって最悪の燃料だ」ということで一致している。それは経済的で、埋蔵量も200年以上あり、地球上に広く分布しているので石油のような地政学リスクもないが、健康への影響は他のエネルギーに比べて桁違いに大きいのだ。

 他方、原発から出る使用ずみ核燃料は、日本で今まですべての発電所で出たものを合計しても1万7000トン。日本の石炭火力で1年間に出るゴミの300分の1だ。そこから出るプルトニウムの毒性は水銀の半分ぐらいだが、水に溶けず、体内に蓄積することもない。