国と東京電力は、福島第一原発の廃炉・汚染水処理が遅れ、2015年5月末に処理を終了する予定が遅れるとの見通しを示した。地下水の原発への流入を止める「凍土壁」の工事も遅れ、年度内の利用開始は不可能になった。

 事故処理と廃炉の作業が遅れる最大の障害になっているのが、膨大な「汚染水」の処理だ。地下水をくみ上げて貯めたタンクは1000基を超え、このまま水を貯め続けるとタンクを増設する場所がなくなるばかりでなく、タンクが壊れると危険だ。

汚染水の放射性物質は飲料水の基準以下

 そもそも汚染水処理に意味があるのだろうか。2月には水質基準を上回る汚染水が湾外で検出されて問題になったが、この原因は雨水とわかった。地下水を止めても、大量の雨が降ってくるのは防げない。それなのに毎日7000人体制で地下水をタンクに移している。

 今はALPSと呼ばれる装置で汚染水を処理しているが、トリチウム(三重水素)だけが除去できないため、汚染水を貯め続けている。トリチウムは水素の放射性同位元素だが、ベータ線のエネルギーがセシウムの1000分の1程度。

 自然界では、宇宙線が大気中の窒素や酸素に当たることで大量のトリチウムが生じており海外では海洋に放出している。IAEA(国際原子力機関)も海洋放出を勧告している。汚染水のセシウム濃度も、湾内でも数ベクレル/リットルで、飲料水の水質基準を下回る。

 つまり今タンクに貯まっている汚染水は、薄めて流せば飲んでも大丈夫なのだ。しかし問題の処理を阻んでいるのが、漁協などの「地元の理解」である。これには法的拘束力がないが、役所はこういう「空気」に弱い。