ギリシャがすごい。1月25日、運命の総選挙が終わった途端、EUはかなり混乱している。なぜ、日本のニュースであまり取り上げないのか? この、バルカン半島の最南部で発生した地震が、これからEU全体に大きな地滑りや津波を引き起こす可能性はかなり高い。そうなると、その影響は経済を通じて、もちろん日本にも及ぶ。
ナチス勃興前夜のドイツに似ているギリシャの国状
ギリシャの財政破たんが明るみに出たのは、2009年のことだった。その救済のため、2010年春以来、IMFとEUが、二度にわたって2260億ユーロもの援助をしている。
そのうえ2012年には、ギリシャが外国の銀行などから受けていた融資の半分以上を返済免除にもした。これが総額1000億ユーロだ。この措置で、ドイツでは、ギリシャの国債を持ちすぎていた銀行が倒産し、その救済にドイツ国民の税金が使われた。
多額の経済援助の代わりにEUがギリシャに求めたものは、厳しい節税と緊縮政策だった。EUとIMFと欧州中央銀行の三者がギリシャに入り、財政を管理した。それによってギリシャ人は、自国が外国勢に占領されたと感じた。
緊縮財政でお金が回らなくなったギリシャは、瞬く間に疲弊してしまった。倒産が相次ぎ、人々は職を失い、消費は行き詰まり、挙句の果て、年金は下がり、医療保険も社会福祉も壊れた。それでもEUは、節税、緊縮を緩めることを許さなかった。
そのうえ、財政再建の進まないギリシャを見て、EUの人々はギリシャ人に怠惰の烙印を押した。ギリシャ人は絶望し、不満がこれ以上にないほど高まった。そして、緊縮政策の先導役であるドイツを、とりわけ憎んだ。
そんな状況の下、国会解散、総選挙と進み、反緊縮を唱えたツィプラス氏が、あれよ、あれよと言う間に突出した人気を得て、ギリシャの首相に収まってしまった。
SYRIZA党のツィプラス党首の圧勝を見ていくと、選挙前のギリシャの国状とヒトラーが台頭した時のワイマール共和国の国状とが、あまりにも似通っていたように感じる。
誤解の無いようにいっておくが、私は、ツィプラス氏とヒトラーが似ていると言っているのではない。そうではなくて、国の状況、とくに国民の心境に、多くの類似性があったと思うのである。
1933年、ヒトラーが政権を取った時、ドイツ国民は疲弊のただなかにいた。第一次世界大戦の敗北で大きな痛手を受けていたドイツ国民を襲ったのが、ベルサイユ条約で決められた過酷な賠償金だった。第一次世界大戦の責任は、なぜかドイツ一国に押し付けられた格好になっていた。
当時、ドイツ国民は経済的に追い詰められただけでなく、ひどい屈辱を感じていた。貧困が人々の心の中までしみ込み、欲求不満と絶望が国全体を覆った。最終的に国民を動かすものは、この屈辱の感情であると思う。ヒトラーは、ドイツ国民の屈辱を怒りに変え、怒った国民を自分の機動力にした。