マット安川 フランス・パリ取材から戻ったばかりの小山和伸さんをお迎えして、衝撃的なテロ事件後の現地の様子や日本との報道の違いなど、詳しくお聞きしました。
襲撃されたシャルリ・エブドの責任を指摘する声も
神奈川大学経済学部教授。経済学博士(東京大学)。横浜国立大学経営学部卒業。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。専門分野は、経営管理論、組織論、戦略論、技術経営論。著書に『救国の戦略』(展転社)、『戦略がなくなる日』(主婦の友新書)など。(撮影:前田せいめい、以下同)
小山 例のテロ事件が起きた3日後、1月14日にパリに行きました。自動小銃で武装して市内をパトロールする軍人たちとすれ違ったりしました。パリであんな光景を見るのは初めてです。
現地の方たちと話しましたが、フランス人はイスラム系の人と共存していると盛んに言うんですね。アメリカなどはまだけっこう人種差別が目につきますが、たしかにフランスでは白人とイスラム系の人が一緒に街を歩いたり住んだりしています。
メディアの論調もいろいろで、中には穏健なイスラム教徒も何かのきっかけで過激化するリスクもあるという主張も見かけますが、多くの人は原理主義的な行動をするのは一部の過激派だけという認識です。
興味深いのは、ある新聞が実施した新しい法案への賛否をめぐるアンケート調査です。「フランス国内でテロ活動に加担した者のフランス国籍を剥奪すること」については、賛成(「賛成」と「どちらかといえば賛成」の合計)が81%、反対(「反対」と「どちらかといえば反対」の合計)は19%。
「フランスからイスラム過激派の支配する地域に行った者の再入国を禁じること」については、賛成(同)68%、反対(同)32%、でした。私はちょっと意外でしたが、法律的な形で規制をかけることに反対する人がけっこういます。フランスで会った方々から聞かれたのも、多くは慎重論でした。
もうひとつ目を引いた新聞記事があります。襲撃された出版社シャルリ・エブドを応援するデモでは「私はシャルリ」という標語が合い言葉のようになっているのですが、マルセイユでこれをもじった「マルセイユはシャルリじゃない」という標語が掲げられたというんですね。
もちろんテロには反対だがシャルリ側にも責任がないとは言えない、センシティブな問題への配慮が十分だったかどうかを問い直すべきではないか、というのが彼らの主張です。
キリスト教が異教徒を虐げてきた歴史を知る必要あり
アメリカの政治学者、サミュエル・ハンチントンは著書の『文明の衝突』で、人類は大きな3つの衝突を体験すると予言しました。
ひとつ目は人種間の衝突です。彼はこれを西洋対非西洋の衝突と表現しました。そこから生じたのが、大航海時代以降の白人による有色人種支配を当然視する文明です。ハンティントンはこの流れがいつ終わったかをはっきり言っていませんが、私は日露戦争から大東亜戦争に至る時期だと思います。