本記事は2014年12月29日付フィスコ企業調査レポート(カイオム・バイオサイエンス)を転載したものです。
執筆 客員アナリスト 佐藤 譲
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エボラウイルスの抗体作製に成功、「パンデミック感染症」分野の開発を加速化
カイオム・バイオサイエンス<4583>は、理化学研究所(以下、理研)発の創薬基盤技術型バイオベンチャーである。独自の創薬基盤技術であるADLib®システムを核とした抗体医薬品の研究開発支援や研究開発等を行っている。ADLib®システムの特徴は、従来の抗体作製技術と比較して「多様性」「迅速性」「困難抗原への対応」に優れていることにあり、従来方式では作製が困難な抗体に対象を絞って、研究開発を進めている。
同社は完全ヒトADLib®システムの技術を用いて、2018年までにパンデミック感染症に対応した抗体の実用化を目指しているが、ここに来てその開発を加速化させている。エボラウイルスの感染拡大やバイオテロへの脅威が高まっていることを受け、特に米国においてその関心が高まってきたことが背景にある。実際、2014年10月にオリジナルのADLib®システムを用いて複数のインフルエンザウイルスの抗体を短期間で作製したのに続いて、12月にはエボラウイルスに対する抗体作製にも成功したとの発表を行っている。
こうした「パンデミック感染症」分野の開発を加速化させるため、11月20日付でエクイティファイナンスによる資金調達を発表した。今回のファイナンスで約2,000百万円を調達し、2017年までの「パンデミック感染症」に関する研究開発費や周辺技術の獲得費用、人員の増強などに向けた費用に充てる計画だ。
2014年10月30日付で、同社は2014年12月期の連結業績修正を発表している。売上高は期初計画比65百万円減の277百万円、営業損失は同135百万円減の907百万円を見込む。修正の主因は、子会社の(株)リブテックがヤクルト本社<2267>と進めている共同研究プロジェクトが進捗したことに伴い、研究開発活動の優先順位を見直し経営資源の集中を図ったことによる。
なお、完全ヒトADLib®システムの状況に関しては、国内外の大手製薬を含む複数の企業から問い合わせを受けている段階にあり、今後も引き続き抗体取得の技術改良を進めながら、究極のヒト抗体作製システムの構築の実現を目指していく。2016年12月期には技術導出する予定で、これを主因として2016年12月の連結業績は売上高3,452百万円、営業利益651百万円と初の黒字化を見込んでいる。
Check Point
●ファイナンスで2,000百万円を調達、研究開発へ重点配分
●今期は9ヶ月の変則決算、赤字幅は期初と比べて縮小
●中計最終年度の16年12月期に売上高3,452百万円、営業利益651百万円へ
パンデミック感染症領域への開発を加速化
ファイナンスで2,000百万円を調達、研究開発へ重点配分
同社は中期経営ビジョンとして、2018年までにパンデミック感染症領域での抗体開発を進めていくことを掲げていたが、ここにきてその取り組みを前倒しで強化していく方針を打ち出している。
この背景には、エボラウイルスの感染拡大が欧米でも広がり社会不安が一時的に高まったことや、バイオテロへの脅威が高まりつつあることなどが挙げられる。とりわけ、米国で同社のADLib®システム技術への関心が高まっている。これはADLib®システムの特徴である「困難抗原への対応」「抗体取得の多様性」「抗体作製期間の迅速性」などが評価されているものと考えられる。