以前の小欄で、ウクライナ危機とロシアの軍需産業について書いた。そこで筆者が指摘したのは、よく言われる「ロシアはウクライナの軍需産業に依存している」という説は事実ではあるものの、ロシアにはその依存状態を脱する能力がある、という点であった。

 そこで現在、ロシアのメディアを賑わせているのが「輸入代替(インポルトザメシチャーニエ)」という言葉である。もともとは一般的な経済学の用語だが、最近ではこの言葉が、「ウクライナ製軍用コンポーネントを国産化する」という意味で用いられているケースが多い。

急がれるヘリコプターの輸入代替

ウクライナ軍が東部で奪還作戦、ヘリ2機撃墜される

ウクライナのスラビャンスク近郊の村に着陸するウクライナ軍のヘリコプター(2014年5月)〔AFPBB News

 なかでも特に輸入代替が急がれるのが、ヘリコプター産業だ。

 ロシアの航空産業は、機体、エンジン、電子機器などほぼあらゆるコンポーネントを自国で賄うことができるが(ブレーキや補助動力装置、着陸用減速シュートなど、ウクライナ製に依存するコンポーネントもいくつかある)、ヘリコプター産業はそうではない。

 大部分のヘリコプターが、ウクライナのモトール・シーチ社で製造されているTV3-117シリーズのガスタービン・エンジンを搭載しているためである。

 したがって、ウクライナ製エンジンが入手できないという事態になれば、ロシアのヘリコプターは肝心の心臓部を欠くことになってしまう。

 もちろん、その意味するところは重大だ。

 第1に、TV3-117シリーズは汎用輸送ヘリから攻撃ヘリに至る、ロシア軍の大部分の軍用ヘリコプターで採用されている。例外は極端な小型ヘリや大型ヘリだけだ。

 ロシア軍は、広大な国土を高速で移動するための機動力や、地上部隊を支援する空中火力としてヘリコプターを重視しており、現行の2020年までの軍備近代化プログラムの枠内で1000機もの調達を見込んでいる。エンジン供給の途絶は、この計画自体を台無しにしかねない。

 第2に、ヘリコプターはロシアの軍需・航空産業にとって最重要の輸出品目の1つである。