経営力がまぶしい日本の市町村50選(31)

 山形県朝日町は、県中央西部に位置する推定人口7311人(平成26年7月現在)の小さな町である。最上川の中流が町域の約21キロにわたって蛇行し、その急流部の中山間地域にある原生林野が町土の76%を占める自然に恵まれた地域でもある。

山形県内トップクラスの財政健全な町

山形県西村山軍朝日町

 また内陸性気候で寒暖差が大きく、冬は寒い日の多い豪雪地帯であるため高品質な果実づくりに最適で、「リンゴとワインの里」を標榜し、日本一おいしいと言われるりんごの生産地としても有名である。

 自然のみならず国の名勝「大沼の浮島」や国の重要文化財「佐竹家住宅」などもあり、歴史的にも文化的にも豊かであるが、一方で、社会減や自然減に伴い、県下町村のなかでも人口減少が著しく、高齢化率は36.8%に達している。

 そんな朝日町であるが、財政健全化法の指標である実質公債費比率*1や将来負担比率*2が県内トップクラスの健全団体であることが分かる。

*1 実質公債費比率: 元利償還金に準元利償還金を加えた金額に対する標準財政規模*3の比率
*2 将来負担比率: 将来負担する実質的な負債の標準財政規模に対する比率
*3 標準財政規模: 自治体の標準的な状態で見込まれる収入である経常的一般財源の規模

 その背景には、身の丈に合った財政支出で町の魅力を引き出す工夫が見られる。その象徴が“所有しないミュージアム”、「エコミュージアム」である。

日本で初めてエコミュージアムを実現

 朝日町は、エコミュージアムを実現した日本最初の町でもある。エコミュージアムとは、1960年代後半に国際博物館会議(ICOM)の初代ディレクターであったG・H・リヴィエールが提唱した概念である。

 それは、「地域社会の人々の生活と、その自然環境・社会環境の発達過程を史的に探究し、自然遺産および文化遺産を現地において保存し、育成し、展示することをつうじて、当該地域社会の発展に寄与することを目的とする新しい理念を持った博物館である」というもの。

 よって、その条件としては、手つかずの自然や歴史、文化、集落が残っていることもポイントとなる。朝日町は奈良時代から朝日岳の山岳信仰の隆盛とともに最上川の河岸段丘をはじめ中小河川沿いに55の集落が散在し、さらに町域には鉄道駅やインターチェンジがなく、積雪で道も閉ざされている日数が多い。

 それらの諸条件が相まって、「町全体が博物館、町民すべてが学芸員」をキーワードとし、町行政の地域づくり計画の中に位置づけたことでエコミュージアムが実現されることとなった。