来る10月14日、山形県の鶴岡市立加茂水族館に、ノーベル賞受賞者の下村脩博士(ボストン大学名誉教授)が米国から来訪する。
加茂水族館は世界一のクラゲ水族館である。「クラゲの展示数が世界最多」としてギネスに登録され、現在、約50種類のクラゲを飼育、展示している。かつては来館者の減少に歯止めがかからず、休館寸前に追い込まれた。だが、水槽の中でたまたま小さなクラゲの卵を見つけたことをきっかけにクラゲの展示に特化。その作戦が見事に功を奏し、奇跡的な復活を遂げた(その復活の軌跡については、拙著『「小さな神様」をつかまえろ!』をお読みいただきたい)。
この6月には、延べ床面積が従来の2倍以上となる新しい建物でリニューアルオープンした。直径5メートルの巨大なクラゲ水槽を擁する新水族館は多くのマスコミに取り上げられ、またこの夏にJR東日本が「山形デスティネーションキャンペーン」を展開したこともあり、全国からの多くの来館者でにぎわった。
下村氏が同館を訪れるのは2度目である。加茂水族館と下村氏のつながりは深い。下村氏はオワンクラゲから「緑色蛍光タンパク質 GFP」を取り出すことに成功し、その功績により2008年にノーベル化学賞を受賞した。下村氏のノーベル賞受賞が決定すると、加茂水族館のオワンクラゲを一目見ようと来館者が殺到した。下村氏は同館の知名度向上に大きく寄与してくれた。それだけではない。下村氏は同館のオワンクラゲを光らせる方法を教示し、2010年4月には招きに応じて同館を訪れ1日名誉館長を務めてくれた。
さらにこの6月には、下村氏と村上龍男館長の共著『クラゲ 世にも美しい浮遊生活 発光や若返りの不思議』(PHP新書)という書籍が発行された。加茂水族館で展示しているクラゲ、村上館長が今までに出合ったクラゲなど約70種類近くのクラゲが、村上館長の撮影による美しい写真と、2人の対談形式の解説によって紹介されている。村上館長は「まさか下村先生と名前を連ねて本を出す日が来るとは」と感慨深い様子だ。
下村氏は、なぜこれほど加茂水族館に目をかけてくれるのか。何もしなければ縁は築けない。実はその裏には、涙ぐましいとも言える村上館長の働きかけがあった。