山田錦の話は前回で終えたつもりでしたが、こんなニュースが入ってきました。山田錦の超大口需要家である旭酒造が、富士通の「Akisai」と呼ばれるクラウドサービスを使って、栽培技術の「見える化」を推進するというものです(「旭酒造と富士通 食・農クラウド『Akisai』を活用した酒造好適米の栽培技術の見える化を開始」)
この事業にかかる金額がどの程度なのか筆者は知りませんが、旭酒造の山田錦確保への全方向的な努力を証明するようなニュースです。
成果や実績が知られていない農業のIT化
しかし筆者は、これを見て2つの意味で「残念だな」と思いました。旭酒造や富士通が悪いと言っているわけではありません。目的を達成するため、現在の技術としては最高峰の仕事をしておられるのでしょうし、実際に役立つシステムでもあるのでしょう。
しかし、こうしたシステムを導入するのは、農家ではありません。この場合も旭酒造ですし、もっと大がかりなクラウドシステムとなると、それなりに資金力がある農協や、そこそこ大きな企業でないと導入もできません。
最近は「ICT」とも言うようですが、情報通信技術(IT)と農業を結びつけるなら、売り込む側としては象徴的な商品が欲しいはずです。そうなると、製品は、企業のプライドと技術力を込めたものとなるはずで、山田錦栽培の見える化システムも、そうした富士通の思いが込められた商品なのでしょう。しかし、いかんせんマーケットが狭く、小さいため、それほど多くは売れないのではないでしょうか?
農業にITを導入するというのは、以前から何度も試みられてきましたし、導入も進んでいます。一番多くの人が使っているのがパソコンで青色申告する類いの簿記ソフトウエアの使用で、1980年代から行われています。ハウス内の温度が高くなったら自動的に屋根が開いて室温を下げるようなシステムもすでにあります。