景気失速懸念が強まりつつある状況下、米連邦公開市場委員会(FOMC)が追加金融緩和に動くのではないかという期待感が、米国市場を中心に広がりつつある。
6月開催分の米FOMC議事録には、「異例に緩和的な金融政策の局面を脱するための試験的な手法を展開し続けることに加えて、見通しがかなり悪化した場合にさらなる政策面からの刺激が適切になるかどうかについてFOMCは検討する必要があるという点に、メンバーは留意した」という記述があった。米国経済の「見通しがかなり悪化した場合」に追加緩和を「検討する必要がある」、という点は、すでにFOMCで話し合われたわけである。
ここで問題は、(1)現在の状況は「見通しがかなり悪化した場合」にあてはまるのか、あるいはどのような統計がどの程度悪化すればそうした条件が満たされるのか、(2)仮に追加緩和をFOMCが実行するとして、具体的に何をどうするのか、という2点に集約される。
まず、(1)「見通しがかなり悪化した場合」に関する問題。バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長が8月2日に行った講演の内容からみて、足元では条件はまだ満たされていないと判断すべきだろう(8月3日のブルームバーグ報道は同じ趣旨である)。そして、最も注目される経済統計が雇用統計であるという点についても、異論は少ないだろう。8月3日のウォールストリート・ジャーナルが報じたように、8月10日のFOMCで不動産担保証券(MBS)償還資金(2011年までに2000億ドル規模)の再投資が検討されるためには、8月6日に発表される米7月分雇用統計の内容がかなり悪いものになるのが前提条件だと考えられる。
次に、(2)具体的な追加緩和の手法はどうか。ボストン連銀ローゼングレン総裁が7月13日のウォールストリート・ジャーナルで列挙したのは、次の3つだった。
(A) FRBが市場から買い入れて保有しているMBSの満期償還資金の再投資
(B) 市場からの追加的な債券買い入れ
(C) 超低金利に付加している「時間軸」強化
これらに、7月8日のワシントン・ポストなどが指摘した次の選択肢を加えておく必要がある。
(D) FRBが準備預金(超過準備を含む)に付利している金利を現行の0.25%からゼロ%に引き下げ
筆者が考える各々の手段のメリット、デメリットは、次ページの図表の通りである。
いずれの手法についても、画期的な効果は期待できそうにないのが実情である。米国の金融政策についても、財政政策と同じく、手詰まり感が強い。