7月1日、集団的自衛権限定的容認の閣議決定がなされた。今後の法整備にもよるが、内閣が示した8事例については、対応可能になる。日本の安全保障政策にとって、大きな前進であるには違いない。
だが今回、「武力攻撃に至らない侵害への対応」つまりグレーゾーン事態の対応については、現行法制の問題点を改善する方向性は示されなかった。与党協議のための政治的妥協で見送られたのは誠に残念である。命令発出手続きの迅速化など運用で改善を図るとされているが、これでは対応できない事案も多くある。
トルコ軍機による撃墜に国際的非難はなし
今年の3月、トルコ空軍がシリア空軍戦闘機「MIG-23」を撃墜したとのニュースが流れた。
シリアとの国境に接近するシリア空軍「MIG-23」戦闘機2機をトルコ空軍が発見し、戦闘機が緊急発進した。領空に接近する2機に対し、4度にわたって警告を実施したものの、内1機が領空に侵入したため、トルコ空軍「F-16」戦闘機がミサイルでこれを撃墜したというものだ。
シリアとトルコの間では、別に戦争状態にあるわけではない。またMIG-23による領空侵犯は武力攻撃事態でもない。トルコの領空主権が侵されただけであり、言わばグレーゾーン事態である。
領空には排他的かつ絶対的な主権が存在する。他国の航空機は許可なく侵入することはできない。特に他国の軍用機や官用機が許可なく侵入すれば、当該国はこれを強制的に着陸させることが国際慣例となっている。もし誘導に従わないで強制着陸を拒否すれば撃墜もやむを得ない。
今回のトルコ空軍の行動は、国際慣例に基づいており、独立国家として正当な自衛行動である。このため、国際社会で非難は起きていない。
緊張が続く尖閣諸島上空では、明日にでも起こり得る事態である。航空自衛隊(以下「空自」)はトルコ空軍と同様、国際慣例に基づく行動がとれるであろうか。戦闘機の性能や操縦者の技量は全く問題ない。だが、現在の防衛法制ではそれは難しい。
2012年12月13日、中国国家海洋局所属の航空機(Y-12)が尖閣諸島上空を飛行し、日本の領空を侵犯した。国家海洋局所属の官用機である。国際慣例に従えば、最寄の那覇基地に強制着陸させねばならなかった。
この時は発見が遅れたため、緊急発進が間に合わず対応できなかった。これ以降、空自は地上のレーダーサイトの死角を補うため、早期警戒機を投入して万全の態勢をとっている。