5月20日、アメリカ司法省は中華人民解放軍所属と思われる5人を産業スパイの罪で起訴した。

 中国は報復措置としてマッキンゼーやボストン・コンサルティング・グループなどの米企業との協定を切るなどしたほか、マイクロソフトのソフトウエアを政府調達から排除している。さらに今月北京で開かれた米中戦略・経済対話でもサイバー作業部会での協議を中止した。

 もちろんこれだけでは終わらないだろう。北京とワシントンの間で経済・軍事面での限定的な協力が進む中、サイバー分野での衝突は今後も長く続くであろう大国間のやりとりのほんの一部分である。

 2カ月前の記事で私は、サイバー問題は世界の政治学会でも、そして実務の世界でも注目されている大きな問題であることなどを述べた(「国際関係学会に見る中国、サイバー問題、非対称戦争」)。

 アメリカの政治学会ではサイバー問題に関する専門書がここ数カ月で多く出版されており、少なくとも安全保障の専門家にとっては「マーケット」になりつつある。

 私が所属するアメリカ空軍でもサイバー問題に対する興味は大きい。空軍の任務としてはエアパワーに基づいた空中の戦いだけでなく、総じて「エアー、スペース、サイバースペース」の空間でも任務をこなす。

 私が教える選択科目や北東アジアの地域学の授業でも、サイバー問題の文献を取り入れ、それらが今後のアジアの政治経済にどのような影響を与えるのかを学生に議論をさせている。

マックスウェル空軍基地にある空軍研究所にて(著者撮影)

「非伝統的」で「非対称」のサイバー問題

 サイバー問題は極めて複雑であり概して定義も難しい。一般的にはある主体が意図的にサイバー空間を部分的に操り、経済、軍事、政治的な利益に結びつける行為が想像できる。複雑な状況を簡略化するためによく取られるアプローチは、サイバー問題を攻撃側と防衛側に分けて考えることである。