先月ここで書いた東アジアへの出張から戻って数日後、今度はカナダのトロントに飛んだ。毎年3月頃に開かれる国際関係学会(International Studies Association、ISA)の年次会に出席するためである。

 ISAは世界中から数千人が集まる、世界で最も大きな国際関係学の専門家の集まりである。特に欧米からの参加者が多いが、日本からも数百人規模の学会員がおり、日本の参加率は世界でも高い方である。また、専門家とは言っても様々なタイプの参加者がおり、大学教授から大学院生、軍事関係者から政策研究者まで幅広い。

 今回の学会で私は2本の研究発表に加え2つのパネルをまとめ、合計4つの議題を任された。今回はその中の3つ(東アジアの政治、サイバー問題、非対称戦争)を選び、それらが国際関係学の世界でどのように扱われ、どのように国際政治の世界に結びついているかについて書こうと思う。

数年ぶりに訪れたトロントは前にも増して美しい街になっていた。これは街のシンボルの一つであるCNタワー最上階のレストランから見たトロントの夜景(写真提供:筆者、以下同)

東アジアと米中関係

 ここ数年続いているアジアの経済力の台頭は学会でも注目されているトピックの1つである。しかしアジアと言っても広域で、その地域により様々な違いがあり、その場所によって注目の度合いも変化する。

 アジアの地域学に限って言えば、1980年代は日本、特にその政治経済学がホットな話題だったが、バブル後の日本経済の後退と同時にアジア諸国の注目度が伸びてきた。

 台湾、シンガポール、韓国、そして香港のような「アジアの虎」もそうだが、国家として急激な成長を続ける中国やインドなどがここ最近の目玉である。特に中国に関するパネルは学会でも多く見られ、中国の内政から外交、環境問題からメディア、そして領土問題まで幅広い議論が繰り広げられた。

 中国研究の需要は政治学の雇用に自然と結びつき、アジア地域学者の採用状況を見れば、中国専門家もしくは中国を含む東アジアの専門家の需要が圧倒的に多い。学者にとっては今後の研究題材を選ぶ上で考慮すべき要素になるだろう。

 私も大学で比較政治の授業をしていて、中国の話題が出ない日はないと言っていい。アフリカや中近東、そして南米の政治経済がトピックである日でさえも、いかにその地域で中国が重要な役割を担っているかなどに注目する。