7月1日、政府による夏の節電要請が全国(沖縄を除く)で始まった。2011年の福島第一原子力発電所の事故から3年、初めて原発稼働ゼロで迎える夏となる。

  関西や九州などでは電力供給に十分な余裕がない地域もあり、決して万全と言えるような状況ではないが、政府は数値目標を設けず、企業や家庭に無理のない範囲で節電への協力を呼びかけている。

 そんな切迫感の薄さもあってか、東日本大震災以降、太陽光発電やコージェネレーションシステムといった新たなエネルギー設備への注目が集まっているにもかかわらず、企業による導入は思うように進んでいない。

 その背景には、こうした設備の導入が短期的なコスト負担増をもたらすことや、企業経営に対する有効性が判断しにくいということがあるだろう。

ブランド戦略研究所 理事長
陶山 計介(すやま・けいすけ)氏

 そうしたなか、「省エネ設備の導入は、企業のブランド価値向上をもたらす」と話すのが、一般社団法人ブランド戦略研究所理事長で、関西大学商学部の陶山計介教授だ。

 陶山教授らは2013年8月から11月にかけて、節電や環境対策に先進的に取り組んでいる企業の総務や財務、環境管理部門の設備従事者、関東・関西の一般企業に勤める有職者を対象に、「省エネ・ピークカットへの取り組みがもたらす企業ブランド価値」に関する調査研究を行った。

 「企業がエネルギーについて真剣に考えるようになった一方で、導入が遅れている省エネ設備について、われわれが専門とするブランド戦略がその普及に貢献できることはないか。そのような想いから調査研究はスタートしました」

 同調査では、企業ブランド価値を、中・長期的に企業活動を継続するために必要な指標であると定義し、「経済価値」「環境価値」「社会的価値」「顧客価値」「従業員価値」の5つの指標をもとに算出した。

 「企業というのは本来、従業員、顧客、地域や社会、株主といったステークホルダーに対して、価値を提供する組織だと考えます。つまり、ステークホルダーが企業に期待する、『経済』『環境』『社会』『顧客』『従業員』という5つの価値が、企業ブランド価値を形成しているのです」

 その結果、企業の環境や節電に対する取り組みのうち、本格的な省エネ設備の導入が企業ブランド価値を最も高めることが明らかとなった。

ガス空調やコージェネレーション導入が高評価

 その算出方法は次のとおりである。関西エリアの課長クラス以上800人に実施した「環境・節電対策に関する調査」をもとに、従業員数100人以上の企業で働く337人のデータを用いて、図1に示した2つの工程を行った。

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  まずは企業ブランド価値に占める各成分価値のウェイトを測定したところ、企業の節電行動・設備導入行動が最も大きく貢献するのは、「環境価値」(26%)であり、次いで「経済価値」(23%)と「顧客価値」(23%)、一方で「社会的価値」(15%)、「従業員価値」(13%)にはそれほど 影響していないことが分かった(工程1)。

 次に「節電・設備導入行動」が、個別の企業ブランド価値(経済、環境、社会、顧客、従業員)およびトータルの企業ブランド価値に与える影響指数を明らかにし、「節電・設備導入行動」が変化した時の影響を推定した(工程2)。

 そして2つの工程により、「節電・設備導入行動」の変化と「個別の企業ブランド価値(経済、環境、社会、顧客、従業員)」の関係式を算出し、シミュレーションを行った。