前回(「『いかにお客様に喜んでいただくか』を追求するのはピント外れです」)は、顧客満足は絶対値ではなく、事前期待と実績評価の「相対値」で決まるということをお話ししました。

 営業やサービスビジネスにおいて最も重要な努力のポイントは、お客様の事前期待を掴むことです。これは、本連載で触れてきたように、サービスやお客様満足の本質を知ることでご理解いただけたかと思います。

 しかし、この事前期待には、とても厄介な特徴があるのです。

事前期待はすぐに膨らんでしまう

 例えば、営業マンがお客様に「なんでもやります!」と言って受注すると、サービス提供をどんなに頑張っても、お客様になかなか満足していただけない、ということがあります。これは、「なんでもやります」と言ったことで、お客様の事前期待が過剰に膨らんでしまったことが原因です。

 確かに受注を取るためには、お客様の事前期待をある程度膨らませなければなりません。しかし、むやみに事前期待を膨らませるのは得策ではないのです。

 さらには、お客様の事前期待は時間とともに高まります。良いサービスを提供すればするほど、お客様の事前期待は膨らんでいくのです。すると、サービスレベルを維持しているだけでは、いつしかお客様の事前期待の方が大きくなって、「以前はよかったのに・・・」と、お客様を失ってしまいます。

 サービス企業は、時間とともに高まるお客様の事前期待以上に、自社サービスのレベルを上げていかなければならないのです。

 しかし近年では、サービスレベルが上がっても値上げを簡単に認めてもらえない時代になりました。この状況で、サービスレベルを高める努力を続けると、徐々に投資が収益を圧迫して、いつかは事業が立ち行かなくなってしまうことも考えられます。サービス企業にとって、お客様の事前期待が高まり続けるのは、死活問題なのですね。