久しぶりに本を出しました。晶文社刊で『しなやかに心を強くする音楽家の27の方法』というちょっと長いタイトルの、大本は以前連載に記した原稿をまとめて手を加え、新たに書き足しもして作りました。
今回は、この本に書かなかった「音楽家の方法」のお話をしたいと思います。
詩劇としてのオペラを読む
ここ数年、私の本務校である東京大学でも、学生向けに値引きのないプロフェッショナルの音楽のレッスンをするようになりました。
と言っても、学生は一般の入試で入ってくる子供たちですから、プロフェッショナルベースの音楽のトレーニングは受けていません。そこで授業協力者の形で、トッププロの皆さんにご一緒していただきながら、オペラを一緒に考え作っていく、というレッスンをすることにしました。
昨年はヴァーグナーの「トリスタンとイゾルデ」全曲を授業で作っていくカリキュラムを組みました。ヴァーグナーのオペラは彼自身の命名で「楽劇」と呼ばれ、作曲者自身が書き下ろしたドイツ語の歌詞が歌われます。
通常の音楽制作日程では、楽譜に歌詞が書き込んであるわけですから、それを見ながらソリスト、また合唱の歌手たちは練習してレパートリーをマスターし、次いで演出がついて舞台を作っていく、そういうプロセスを(どこの国でも)踏みます。
しかし、そこで簡単にスキップされやすい、大事な基礎段階があると私は思うのです。それは音楽以前の「劇詩」を読む、というステップです。
例えば、誰でも知っている例で「君が代」を例に同じことを考えてみましょう。多くの人は、この歌を、最初から節付きで
「きぃみぃがぁぁぁ よぉぉぉわぁぁぁ ちぃよぉにぃぃぃ やぁちぃよぉにぃ」
というようなもの、と思って耳で覚えてしまったのではないでしょうか。でその通りに歌う。この結果、オリンピックその他でこれが鳴るとき、また特に日本人がこれを歌うとき、ここまで平坦というかのっぺりと何もない歌もあるまい、というような、平板な歌になることが多い気がします。