欧州銀行監督委員会(CEBS)は7月23日、欧州20カ国の91金融機関(資産規模の65%をカバー)についてCEBSが基準を作成し各国の銀行監督当局が行ったストレステストの結果を発表した。経済成長率が欧州委員会の予測に比べて一段と悪化する場合や、政府の信認危機が発生して国債相場が大幅に下落した場合に、中核的自己資本(Tier1)比率が6%を下回るとして「不合格」と判定された金融機関は7つ(ドイツ1、スペイン5、ギリシャ1)。自己資本の不足額はわずか35億ユーロにとどまった。ただしこの点については、CEBSの公表文に明記されている通り、今回の欧州のストレステストは7月1日までに各国政府によって公的資金が約1696億ユーロ注入された後で実施されたものである点にも留意が必要である。

 ほとんどの金融機関がテストに「合格」することを事前に織り込んでいた市場の反応は、実に冷静なものだった。米国の例にならってストレステストを実施し結果を公表するよう欧州側に求めたと報じられているガイトナー米財務長官はさっそく声明を出し、「ストレステストにより、EUは個別行の状況に関する情報開示の拡大および市場安定強化に向け、意義深い取り組みを果たした」と評価した。

 今回の欧州ストレステストについて筆者は、「予定調和」的な落としどころになるだろうと、事前に予想していた。欧州の銀行監督当局は、今回のテスト結果公表によって、欧州の信用不安問題に関する市場の疑心暗鬼が「ある程度解消」することを目論んだと考えられる。市場でパニックが起きるような内容になる可能性は、現実問題として、そもそも存在しなかった。一方で、あまりにテスト基準が緩く、「不合格」の金融機関がほとんど出てこないようだと、テスト自体の信頼性を市場が強く疑いかねない。それなりの数の「不合格」が数カ国から出てくる、という結果も、事実上既定路線だったように思われる。なお、ギリシャで結果発表直前になって基準が厳格化されたという報道が流れ、「不合格」の銀行が1つ出たことは、そうした「さじ加減」の存在を連想させる動きだったと言える。

 むろん、今回のストレステスト結果発表によって、市場の疑心暗鬼が「払拭」されるわけではない。ソブリンリスクの問題(国債価格の下落)について、トレーディング勘定の国債についてのみ評価損を計上し、バンキング勘定の満期保有目的の国債については評価の対象から外した点についても、批判の声が多く出ている。

 だが、そうした声が出てくるだろうということについて、欧州の当局者サイドは事前に十分覚悟していたと考えられる。コンスタンシオ欧州中央銀行(ECB)副総裁は7月23日の記者会見で、ユーロ圏の政府が債務不履行に陥ることを投資家が懸念しているのに、なぜ想定しないのかと問われ、「そんなことをすれば矛盾に陥る」と語った(7月25日 朝日)。筆者なりに推測すると、そう述べた理由は、(1)すでにEUは国際通貨基金(IMF)と協調して、ギリシャ向けの1100億ユーロに加え、7500億ユーロという巨額の金融支援枠を打ち出しているので、仮にユーロ圏諸国の債務不履行をストレステストの全面的な前提にすると、自らの政策失敗の可能性を認めるという自己矛盾に陥ってしまうこと、(2)例えばギリシャのテスト対象金融機関がバンキング勘定で大量に保有する自国(ギリシャ)国債の債務不履行をストレステストの前提にすると、テストの実施主体であるギリシャの政策当局が自らの失敗を認めるという自己矛盾に陥ってしまうこと、の2点であろう。