ベトナムの原子力発電所の建設計画はどうなるのか――。
2011年に発生した福島第一原子力発電所の事故により、世界的に原子力政策を見直す動きが広がる中、これまで原発建設計画を堅持してきたベトナム。しかしここにきて、この計画に転機が訪れている。
2014年1月、ベトナムのグエン・タン・ズン首相は、同年中に予定されていた原発の着工が2020年へ大幅に延期される可能性を示唆した。また最近の地元報道では、原子力に対する住民からの不安の声が伝えられている。
急拡大するベトナムの電力需要とインフラ整備の遅れ
なぜベトナムで原発なのか。そんな疑問を持つ読者もいるだろう。
ベトナムが原子力発電所の建設を目指すのは、同国での電力需要の急速な高まりがある。1986年に市場経済の導入と対外開放を目指すドイモイ(刷新)政策を採択し、経済成長を図ってきたベトナムでは産業部門の活発化を受け電力需給が逼迫している。
産業の成長を後押ししているのが、外国企業の投資拡大であり、ベトナム政府は外資の誘致をてこに経済のさらなる成長を目指している。
さらに、外資進出の一因となっているのが、これまで「世界の工場」として各国企業の投資が盛んだった中国の人件費高騰。企業はリスク分散の目的もあり、中国以外の国へ生産拠点を移している。その移転先の一つとして注目されるのがベトナムなのだ。
およそ9000万人の人口を抱えるベトナムは若年人口が多い。賃金も上昇傾向にあるが、それでも近隣の中国やタイなどと比べるとまだ競争力がある。識字率が高いなど教育水準が一定水準にあることも企業にとってプラス材料だ。
そのうえ、経済成長に伴う個人所得の伸びによる消費市場としての可能性も拡大している。
これまで製造拠点として注目されてきたベトナムだが、最近ではものを売る場所としての関心も集めている。実際に、イオンが2014年1月、ベトナム南部に同国1号店となるショッピングセンターをオープンするなど、消費者を狙う企業の動きも広がっている。
さらに政府が外資誘致に向け、特定産業における法人税の減免措置など優遇政策を講じていることもあり、外資の投資が拡大している。
一方、ベトナムではインフラ整備が遅れており、中でも電力の不足が課題となっている。工業化と経済発展を推し進めようとしても、その基盤となる電力インフラの整備が遅れており、対策が急務なのだ。