小さな路地を右折すると、奥深く谷が広がっている。
「おはようございます」
すれ違った子供たちが、家の門に入って消えた。
ツツジの生け垣の背後に立派な鯉のぼりが翻り、その向こうに杉や竹、そして広葉樹林が見える。谷の中心を流れる川のまわりに棚田。水を張ったその棚田が田植えを待っている。
千葉県いすみ市正立寺(しょうりゅうじ)。ここは、江戸時代、日蓮宗不施不受派の人たちが西から辿り着いた場所だそうだ。なぜか土佐新田藩の領地。
そんな土地で田植えを手伝ってきた。
味を取るか? お金を取るか?
東京駅から海ほたる経由で1時間20分。大多喜のバス亭から5分ほどで正立寺に着く。
田んぼを貸してくれる方の講義がさっそく始まっている。
「むかしは田植えは女性の役目。男性は苗を配る役目でした」
「女性が田植え中に立ったまま排尿するのを見てビックリした」
「自分が子供の頃は5月に田植え休みがあって、学校を休んで田植えを手伝いました」
機械植えに切り替わってからは、子供は苗を田植機まで運ぶ役割だった。田植機で植えられない箇所は手で植える。家族だけで人手が足りないと「結(ゆい)」といって、知り合いが助けてくれた。
そんな話が終わって、いよいよ水が張ってある田んぼへ。
広さ2アールの細長い田んぼに、プールのレーンのごとく縄が張ってあり、そこに横1列5本ずつ稲を植えていく。
縄を横に張り、その縄に沿って植えるやり方や、いすみ市の少し北のほう東金市では前へ進みながら植えるという。田植えにもいろいろなやり方があって面白い。