欧州のソブリン問題の深化と歩調を合わせるかのように、5月以降、米国経済は変調を来している。
住宅や雇用の数字は再び下振れ、市場の期待を裏切ってきた。株式市場は4月下旬のピークから7月上旬まで一時2割近く下落し、長期金利は3%を割り込み、リセッションの匂いを嗅ぎ取ったかのような動きだ。
二番底の懸念はないが、企業・消費者のセンチメントは慎重
2009年、米国の期待を一身に背負って誕生したオバマ政権は、連邦準備制度理事会(FRB)と手を組み、正常に近いところまで経済を立て直すことに成功した。しかし、中間選挙までもう少しのところでオバマ・マジックは効かなくなってしまったようだ。
支持率は40%近くまで落ち込み、民主党の劣勢が伝えられている。米国経済は、バランスを欠いたまま再び二番底に向かって転がり始めるのだろうか──。そんな懸念を抱きつつ、米国経済再点検を目的として、7月上旬にワシントンDC、ニューヨークを訪問し、エコノミスト、株式ストラテジスト、ワシントンウオッチャーと意見交換を行った。
結論から述べれば、「二番底の可能性はノー」だ。
循環的な景気回復局面で、住宅購入支援など政策効果が剥落したことによる数字のブレと、欧州ソブリン問題や中国の減速懸念などにより企業や消費者のセンチメントが一時的に慎重になっている──これが、今の米国経済の姿なのだ。いわゆる「踊り場」という表現がピッタリかもしれない。
ただ、米国経済が従来の回復期にはなかった3つの課題を抱えていることを、しっかりと認識しておくべきだ。いずれも「中期的課題」に属するものだが、折に触れて企業センチメントに影響を与え、回復への道筋をより険しいものにする可能性がある。さらには、数年後の米国経済の姿を大きく変える可能性をもはらむものだ。
大型景気対策不発で財政保守派が台頭
まず第1点目は、財政赤字問題。財政赤字に対して世界的に警戒感が出てきたことが、不透明感を強めている。オバマ政権誕生時には誰も財政赤字など気にしていなかった。しかし、日本の国家予算に匹敵する8620億ドルの超大型財政刺激を行って雇用は十分に回復せず、財政保守派の台頭を促した。
春先からのギリシャ債務危機の深刻化がそうした空気に拍車をかけ、「ギリシャ問題が政策オプションを奪った」との認識が企業マインドを慎重化させた。