民俗学者の宮本常一が土佐や対馬を歩きまわり、土地の古老から夜這いや馬喰など日本の古い風習を聞き書きした本『忘れられた日本人』。とても面白い。
寄合にみる身体的合意形成
この本には今から100年以上前の辺境のコミュニティ自治の仕組みが具体的に記録されている。そんな古い話だが、久々に読み返すと、いまのビジネスマネジメントに通用することがたくさん書いてあってビックリした。
なかでも面白いのが、3日3晩話し合って合意形成する寄合(よりあい)の仕組み。数字やロジックで納得させるディベート的世界に浸っている自分にとって、忘れていた感覚を呼び起こしてくれた。
寄合では、1つの議題を集中審議するわけではなく、いろいろ寄り道をしながら各自が知っていることを言い合うそうだ。そのうちに、誰かが「もうこの辺でどうだろう」と声をかけると、一同OKとなる。
要は話すのに疲れて「まぁいいか」という場の雰囲気になるんだろう。いまの感覚だと「なんといい加減な(怒)」と思うだろうが、疲れるほど議論すると、不思議ともういいだろうという気になるのも確かだ。
数字やグラフとは違う納得感。腑に落ちる感覚。先人たちは、そんな合意形成の仕方をカラダで分かっていたのではないか。
短期的成果を求める現代資本主義は、時間をかけて話し合う暇なんて無い。対話や議論が面倒くさいと感じる中間管理職の人も多いだろう。会議はたいてい、幹部会議で決定した事項の連絡で終わる。それに異議を唱えて議論する場ではない。
それでも、いまの企業でも泊まりがけの合宿で経営課題を議論させることがある。あれこそ、現代の寄合である。
宮本常一が訪れた対馬のとある村では、こうした寄合が400年以上続いていたのだという。祝祭、イベント、合宿など、コミュニティ運営は身体的なコミュニケーションの積み重ねであることを優れた人たちは経験的に知っているんだろう。