世の中、好きなことを仕事に結びつけるのはそう簡単なことではない。趣味と実益を兼ねることとも言えるが、趣味をお金にできるほどに高めるのは至難だ。この点、趣味と仕事をうまいこと組み合わせて、近ごろ“ブレイク”しかけているのが、英語落語家の鹿鳴家英楽(かなりや・えいらく)こと、須藤達也さん(55)だ。

英語の先生であり、英語落語の教室を主宰

英語落語を流暢に語る須藤達也さん

 プロの落語家はいるし、英語を仕事にしている人は数多いが、須藤さんは神田外語大学・神田外語学院で英語の講師を務めるかたわら、英語落語の教室を主宰し、また自ら英語落語家として、学校などを中心に各地で公演を行っている。

 ボランティアでの公演も多いから純粋なプロの仕事とは言えないが、海外協力事業団の依頼で落語を知らない外国人研修生などに聞かせたり、各地の学校などで公演したりと幅広い分野からお呼びがかかってきている。

 もともとプロの落語家を講師に招いて落語教室を開いていくなかで、これとは別に須藤さん本人が講師も務める「キャナリー英語落語教室」をつづいて主宰、現在落語教室には70人が、英語落語の方には老若男女30人が通っている。

ジョークも西洋文化のなかに置き換えて創作

 英語落語といえば、いまはなき二代目桂枝雀がその世界を切り拓いたことで知られる。彼の後を追って、落語のプロだけでなく英語のプロからのアプローチもあり、さまざまな人が取り組んでいるが、古典落語をはじめ落語の世界の理解はもちろんのこと、英語力、そして日本語と英語による演芸・パフォーマンスについての見識が必要とされる。

 落語家ではないが、須藤さんはこの3つの要素を持ち合わせている。まず、英語のプロとして、文化的な背景が理解できないと笑いが取れない点は、さりげない説明を話のなかに織り込み外国人に理解させる工夫をする。

 「決して、話の流れを止めて説明するのではなく、話し言葉のなかに織り込むようにしていますね。簡単なところではお金の単位で“一両”なんて言っても分からないから、『今の金で言えば、家賃の3カ月分だな』なんて言って分かってもらいます」

 日本語の落語表現の味わいをどう英語に翻訳していくかという力量も問われる。その神髄を理解した上で新たな英語表現をする点が、須藤さんの真骨頂だろう。

 「英語では説明できない部分がどうしてもあり、それらは削除しなくてはいけないので内容が差し引かれていく。すると中身が薄くなるから、英語で話を足していく必要がある。つまり創作ジョークを入れていくこともある」という。ここで創作力、英語力が問われる。