マット安川 日本人が失った心意気を、今回のゲスト・藤木さんは「GNO(義理・人情・恩義)」と呼びます。経済を見ても、政治を見ても、「GNOを大切にする、気概のある奴がいない。それが寂しい」と。戦争と終戦期を体験し、この国の成長と凋落を見続けてきた先人のお話は、世が迷走しているだけに胸に染みました。
政治で最も大事なのは、国民の信頼を失わないこと
横浜港運協会会長、藤木企業株式会社 代表取締役会長。 実業家として港湾産業の近代化に取り組み、また長く日本の港湾行政に携わる。(撮影・前田せいめい)
藤木 私の友人に森田実さんという評論家がいるんですが、彼から教わった孔子の話があります。
弟子の子貢が孔子にこう尋ねました。政治で一番大事なものは何ですか、と。孔子はその問いに対し、まず食の足ること、その次は兵の足ること、そして国民から信をもらうこと、の3つが大事だと答えた。
子貢は次に、ではその3つの内やむを得ず1つ削らなければならないとしたら何を削りますか、と尋ねた。孔子は即座に、それは兵だ、兵は削っていいと答えた。
子貢はさらに、では残り2つの内どうしても削らなければならなくなったらどちらを削りますか、と尋ねた。孔子は、それは食だと答えた。人は必ず死ぬもので、食べなくて死ぬのはしょうがない、死ぬのが早いか遅いかだと。
しかし、政治というのは永遠であり、これは滅びることはない、国というのは滅ぼしてはいけないと。だから、国民に信じてもらうこと、政治が絶対に信頼を失わないこと、これが大事だと孔子は言ったそうです。今の世の中にピッタリ合う話だと思います。
昨年9月の政権交代は革命だったのに・・・
国民が政治家を信じているかいないかという前に、政治家自身が自分を信じているかという問題があります。今の政治家は自分を信じていません。
昨年9月に民主党が政権を取りましたが、あれは政権交代ではない。血を流さなかっただけで、たいへんな革命なのです。大革命です。
しかし、マスコミが政権交代と言うから、何か人が代わっただけというふうになった。革命した方もその重要さが分かっていない。
自民党も往生際が極めて悪い。折あらば政権を取り返すぞなんて言っている。本当はすでに命を取られているんですよ。