2009年4月、ソマリア沖。

 米国船籍のコンテナ船「マースク・アラバマ号」が4人の海賊に乗っ取られた。乗員の安全を第一に考える船長は自ら人質となった。そして、米国海軍が救出に乗り出し・・・。

トム・ハンクスの熱演でソマリアに再び注目集まる?

キャプテン・フィリップス

 そんな実話の映画化『キャプテン・フィリップス』(2013)が、現在、劇場公開中である。年間2万を超える船が通り抜けるというアデン湾を中心としたソマリア近海は、いまや、海賊銀座。2005年頃から事件は急増していた。

 救出後、フィリップス船長は「時の人」となり、メディアは「ヒーロー」と称えた。しかし、先進国の人々にとっては、しょせん遠い見知らぬ地での出来事。話題となってもすぐ忘れてしまう。

 今回、船長を演じたのは大物俳優トム・ハンクス。さっそくアカデミー賞候補との声も上がるほどの熱演だから、地域への注目度も再び上がることだろう。

 ハリウッドのブロックバスターにありがちなステレオタイプのヒーロー像ではなく、冷静な役柄として演じていることも評価できる。

 『ユナイテッド93』(2006)で9.11同時多発テロを描き、大量破壊兵器が見つからないイラク侵攻の現実を『グリーン・ゾーン』(2010)で糾弾し、社会の歪みを描いたポール・グリーングラス監督が、海賊や地域への視線も併せ持つ作品に仕上げている。

 船長救出劇には、『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)でも描かれたオサマ・ビンラディンの最期も演出した海軍特殊部隊ネイビーシールズが活躍。スナイパーが海賊3人を射殺し救出した。そして、残ったリーダー1人だけが米国で裁判を受けることになった。

 そんな4人の海賊を演じた俳優の特徴ある風貌も映画の臨場感を高めている。彼らは皆、オーディションで選ばれたソマリ人なのだ。もちろん、治安が最悪レベルにあるソマリアでオーディションなどできるはずもないから、欧米でのオーディションである。

 リーダーを演じたバーカッド・アブディは米国ミネソタ州在住だが、生まれはソマリアの首都モガディシュ。隣国イエメンで育った。ほかの3人も、イエメンやケニアといったソマリアの隣国で育ち、欧米へと渡ってきた青年たちである。