コピーライターの境 治(さかい・おさむ)さんが、前回このコラムに書いた線路と鉄道について、あやとりブログに一文を寄せられている。そこで紹介されてるのがアメリカの人気ドラマ、『ウォーキング・デッド』。
狂気がもたらすコメディ
最近それと同じくらい面白いテレビドラマを発見した。その名も『ブレイキング・バッド』。アメリカで1000万人以上が視聴した大ヒットドラマである。
タイトルのブレイキング・バッドはアメリカ南西部で使われる言い回しで、悪に手を染めるとか、法律ギリギリのことをする的な意味。
“Just gonna break bad?”
物語の主人公、高校の化学教師ウォルトは、ドラマが始まってすぐに、こう言われる。
癌が見つかり余命2年の彼は、自分が死んだあとの家族の生活を慮り、なんと化学の知識を活かしドラッグを作って、金を稼ぐことを思いつく。
高校教師とドラッグ製造という意外性に富んだ設定も十分面白いのだが、この物語に引き込まれる最大の要因は、回を重ねるごとにエスカレートするウォルトの狂気である。
彼は、家族のためにという一点を梃にして、自分に関わる人たちの人生を狂わせていく。ドラッグディーラーは殺され、飛行機が墜落し、麻薬捜査官の義弟は襲撃される。一番の衝撃は、取引先のマフィアのボスまでもが殺されることである。
ウォルトの義弟でDEA(麻薬捜査官)ハンクを演じたディーン・ノリスは、テレビのトーク番組で、「このドラマはダークコメディだ」と言っている。
まさに、ブラックジョーク。不条理であり、とばっちりだ。理系のウォルトの行動は理詰め。しかし、方程式の変数がズレているために、出てくる答えが頓珍漢である。
そして、問題はそのズレにウォルトが全く気づいていない点。劇中に自分がいたら、ちょっと待ってくれよと思うだろう。実際、ウォルトの相棒ジェシーも、回を重ねるごとにウォルトと距離を置く。相棒どころか家族との関係もおかしくなる。
ウォルトはどこまで周囲を振り回すのか。傍観者として見ていてもちょっとハラハラしてくる。