食品中に含まれる「脂肪酸」という物質に焦点を当てて、どれくらい心配する必要があるのか、どう付き合えばいいのかなどを前後篇で考えている。脂肪酸は、脂肪の主要な部分をなす物質だ。

 前篇では、脂肪酸のなかでも、心筋梗塞になるリスクが高まるなどと言われ、人々の関心が高い「トランス脂肪酸(トランス型不飽和脂肪酸)」に目を向けてきた。

脂肪酸の分類

 取材した昭和女子大学生活科学部健康デザイン学科教授の江崎治氏によると、日本人平均では、総エネルギーのうちトランス脂肪酸が占める割合は1%未満で、欧米人などより低い。トランス脂肪酸のインパクトはさほど強いものではないという。しかし、多く摂取している人もいるだろうから、トランス脂肪酸摂取量をより少なくすることは必要だという。

 後篇では、トランス脂肪酸とともに、これまでさほど注目されてこなかった「飽和脂肪酸」にも着目してみたい。食品中のトランス脂肪酸含有量を減らすと、今度は飽和脂肪酸が増える。そんな“トレードオフ”の関係も言われている。

 飽和脂肪酸のことを心配する必要はあるのだろうか。引き続き、江崎氏に話を聞いてみた。

企業はトランス脂肪酸を努力で減らすことができる

──まず、トランス脂肪酸について聞きます。食品安全委員会が2012年に示した「『食品に含まれるトランス脂肪酸』評価書」に、食品企業のトランス脂肪酸使用量を2006年度と2010年度で比べた表があります。業務用マーガリンでは、平均で100グラム中9.04グラムから0.82グラムへ、また、業務用ショートニングでは、平均で13.1グラムから0.59グラムへと大幅に使用量が減っています。一般用でも減少傾向にあるようです。これをどう見ますか?

江崎治氏。昭和女子大学生活科学部健康デザイン学科教授。医学博士。岐阜大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部を経て、1986年より国立健康・栄養研究所へ。同研究所で、生活習慣病研究部部長、基礎栄養研究部部長などを歴任して、2012年4月より現職。専門は代謝学、内分泌学、スポーツ科学など。糖尿病、肥満発症予防のための基礎研究を進めてきたほか、『日本人の食事摂取基準』(2005年版、2010年版)の「脂質」の項目の策定などにも取り組んできた。

江崎治教授(以下、敬称略) 2010年の数値は、企業が選んで提出してきた食品サンプルのトランス脂肪酸含有量を調べたものです。企業はトランス脂肪酸の含有量の少ないものを出してきた可能性があります。

 この評価書の参考になった2010年の「食品に含まれるトランス脂肪酸に係る食品健康評価情報に関する調査」検討会で私は座長を務めましたが、その調査報告書には「食品中のトランス脂肪酸量の測定に関しては、ランダム化して選択したサンプルでなく、かつ数も少ないため、日本で販売されている食品を代表している値であるかどうか疑問」と明記しておきました。

 つまり、評価書の値からは、日本の食品にトランス脂肪酸がどれだけの量が含まれ、量がどう推移したのかは評価できないわけです。食品中のトランス脂肪酸の含有量の変化を調べるためには、実際に市販されている商品のトランス脂肪酸含有量をランダムに調べる必要があります。