イタリア地中海に浮かぶランペドゥーサ島から目と鼻の先で、10月3日、アフリカの難民500人余りを乗せた船が沈没した。ランペドゥーサ島はシチリアよりもチュニジアに近い(138キロ)ため、アフリカ難民の格好の目的地だ。
島にかなり近づいたとき、船がエンジントラブルを起こしたため、助けを求めようと、難民の誰かが毛布に火を点けた。その火がたちまち火災を引き起こし、船が沈没したという。
300人を超える死者を出した難民船
難民のほとんどはソマリア人とエリトリア人だったが、アフリカやアラブの人たちは、泳げない人がほとんどなので、船もろとも、大半が暗い海に沈んでしまった。どうにか浮かんでいて救助されたのは、たった155人だ。
その当日のニュースの映像では、引き揚げられた何百もの遺体がビニールにくるまれて、港に並べられていた。
そこへ、さらにどんどん運ばれてくる溺死体。あまりの惨状に、泣きながら死体を運んでいる人の姿もあり、見ているだけで胸が詰まった。難民ボートの事故としては、今までで最大であるという。
しかし、真の悲劇は、今回の被害の大きさではなく、地中海ではこれと同じことが常に起こっているということだ。
アフリカ大陸の、貧困、内乱、干ばつなどで絶望した人たちは、藁にもすがる気持ちでヨーロッパの地を目指して、おんぼろボートに乗り込む。2011年は「アラブの春」の影響もあり、人口4500人のランペドゥーサ島に、4万8000人の難民が流れ着いた。
しかし、流れ着かなかった人も少なくないはずだ。今回の遭難も、遠いところで起こっていたら、誰も知らないままに500の命が海の藻屑と消えていた可能性は高い。そう言えば、スペインのカナリア諸島には、ツーリストのいる美しい砂浜に、ちょくちょく溺死体が漂着するのである。
船の沈没から4日過ぎた7日の日、沿岸警備隊の潜水夫は、海底に沈んでいる船の中で折り重なっている死体を、休む間もなく引き揚げ続けていた。9日にはその数は300体を超えた。しかし、まだ全部ではない。
9日には、イタリアの首相と共に、EUの委員長バローゾが視察に飛んできたが、島の住人はバローゾ委員長に罵声を浴びせかけた。EUの難民政策に対する非難は、今、EU全体で急速に膨れ上がっている。