本稿ではまず、ロシアのエネルギー情勢近況を概観してみたいと思います。7~8月はロシアでは夏期休暇の時期ですが、夏休み中にも様々な動きがありました。
露エネルギー情勢近況概観
筆者の前号にて既報通り、英BPは今年6月、ロシアの天然ガス確認可採埋蔵量を唐突に約26%減少しました。これに対し、ロシア政府はいかなる対応策を講じたのでしょうか。はいそうですか、とおとなしく応じたのでしょうか?
日本では7月5日、英BPが2013年度版エネルギー統計白書(WEO 2013)のプレゼンテーションを開催しましたが、ロシア政府はまさにその日、ドミトリー・メドベージェフ首相が政令#569に署名しました。この政令#569は、原油と随伴ガス埋蔵量を国家機密から外す政令です。
ロシアでは2000年5月にウラジーミル・プーチン大統領代行が大統領に就任しましたが、その後、プーチン大統領は天然資源の埋蔵量・生産量・消費量等々を国家機密に指定しました(天然ガスは例外)。
ロシアが今回、原油・随伴ガス埋蔵量を国家機密から外したことは、国家としての威信をかけてBPの数字に対抗して、原油・天然ガスの探鉱・開発にかける意気込み・矜持を世界に示したとも言えるのではないでしょうか。
なお、政令#569を受け、セルゲイ・ドンスコイ天然資源・環境相は早速直近のロシア原油・天然ガス埋蔵量を公表しましたので、ご参考までにロシア発表の公式数字を下記ご報告致します。
☆ BP2012年度版 BP2013年度版 露発表(A+B+C1) 露 (C2)
天然ガス 44.6兆㎥ 32.9兆㎥ 48.8兆㎥ 19.6兆㎥
原油 882億バレル 872億バレル 178億トン 109億トン
(注:原油にはガスコンデンセートを含む。天然ガスには随伴ガスを含む)
ここで、(A+B+C1)というのは旧ソ連邦諸国の確認可採埋蔵量、C2は推定埋蔵量相当の概念です。また、原油1トンは約7.3バレルですので、換算すれば、178億トンは約1300億バレルとなります。
BPはロシアの天然ガス確認可採埋蔵量は大幅に減少させて、原油の確認可採埋蔵量は減少させていない点に、BPの意図を感じます。
BPの説明によれば、ロシア原油の確認可採埋蔵量は以前から西側基準に準拠していたとのことですが、それならなぜ天然ガスのみロシア基準で発表してきたのか、どうも一貫性に欠ける説明です。