日本の経営学とアメリカの経営学を比較すると、アメリカの方がレベルが高いと思う方が多いようです。事実、そう思っている人が多いからアメリカの名門大学のMBA取得者が世界中でもてはやされたりもするわけですが、“経営の学び”に関しては、日本はアメリカよりも先行していた部分もあります。
学問としての経営学は、ドイツの“経営経済学”の系譜と、アメリカの“マネジメント”の系譜と2つの流れがありますが、日本にはこれとは別に“歴史に学ぶ”系譜がありました。
“歴史に学ぶ”系譜を象徴するのは、リニューアル前の雑誌「プレジデント」です。
かつての「プレジデント」は、当時の経営の最前線にいる会社の分析に負けないくらい、“歴史に学ぶ”経営特集を組んでいました。本多光夫(作家・諸井薫)氏が始めた企画で、中国古典、連合艦隊、徳川家康の特集が人気だったようです。そうした経緯があるので、こうした歴史から経営を学ぼうとする人を、筆者は「プレジデント学派」と呼んでいます。
日本でビジネスマンの必読書として、昔から司馬遼太郎の歴史小説が挙げられることが多いのも、こうした歴史的伝統が日本にあるからです。
筆者の知る限り、アメリカ経営学の世界で歴史に学ぶ姿勢を最初に見せたのは1980年代に出版されたマイケル・ポーターの『競争の戦略』です。しかし日本では「競争の戦略」が出るよりずっと昔から歴史に範を求めた経営者が多かったのです。
現代の経営学のビッグネームというと、ジェームズ・C・コリンズがいますが、彼の言う偉大な企業を作るノウハウも、歴史に学んでいればそれほどの驚きもなかったりします。
兵士のやる気こそが一番大事
〈私は通説に逆らってでも、戦争の決め手になるのは黄金の力ではなくて、精兵なのだと主張したい。なぜこう言えるのかといえば、金銀の力だけでは精兵を見つけてくるわけにはいかないけれど、逆に精兵をもってすれば黄金を手に入れることなど、簡単しごくだからだ。〉
(『ディスコルシ 「ローマ史」論』、ニッコロ・マキァヴェッリ著、永井三明訳、ちくま学芸文庫)