全国の医師数、29万5049人。これは人口1000人に対して2.3人の医師がいることを意味する。あなたはこの数字をどう捉えますか?

 「医師不足」というフレーズを、私たちはこれまでに何度も耳にしてきた。「医師不足」とは、地方の病院や小児科、産婦人科、救急などの特定の診療科で医師が不足し、地域のニーズに応えられなかったり、病院経営が成り立たなくなるような状況を指している。

過去20年間に50%近く増えた日本の医師数

 ところが、医師の数を調べてみると総数は年々増加傾向にあり、1990年に約20万人であった総医師数は、過去20年で50%近く増加している。問題は「医師不足」ではなく、「医師の偏在」なのだという見解を政府も示している。

 これは、現行の医療制度と医師のキャリアシステムのもとでは、地域の人口や疾病構造に対応して医師が適切に配置されていないことを示唆している。

 初めに、日本では、医師の研修先と専門となる診療科がどのように決まるのかを簡単にまとめてみたい。

 医学生は医学部での6年間の医学教育と臨床実習を経て、医師国家試験に臨む。国家試験に合格した医学生は2年間の臨床研修を受けることが義務づけられている。臨床研修先を決めるためにはマッチング制がとられていて、医学生が希望する臨床研修病院を提示することによって研修先が決められる。

 医学生は研修先を選べるようになり、地方の大学病院の医局ではなく都会の総合病院に希望が集中するようになった。現行の臨床研修制度は2004年に始まったが、研修病院として人気のない病院では重要な働き手である研修医が募集人員に満たず、この制度が「医師不足」を加速させる一因になったと言われている。

 臨床研修制度は見直しが行われてきたが、特定の診療科に専門医数の上限を設けるなどの措置はとられていない。したがって、ほとんどの診療科で医師数が増加する一方で、“足りない”とされる産婦人科医と外科医の数は減少傾向、内科と小児科は横ばいという状況にある。

 諸外国の例を見ると、医師になる入り口の段階で各診療科への配分と選抜が行われている。例えば、産婦人科のポストは4人、脳外科は5人などと専門医の数に上限が設けられている。

 数は、地域の人口や疾病構造に対応して決められていて、どこに、どの専門医が何人必要なのかを政府や各専門学会などが臨床データや指標をもとに計画して決めている。研修医が人気の診療科を目指しても、必ずその専門医になれるとは限らない。