黒川清・日本医療政策機構代表理事監修
厚生労働省によると、2011年度の医療費は、2010年度に比べて約1.1兆円増加し、過去最高の37.8兆円であった。そして、医療費は9年連続で増加している。財源が限られているなか、どのようにこの医療費を賄うかは、きわめて深刻な問題である。
長寿大国日本に見られる主要な疾病は、がん・脳血管疾患・心臓病・高血圧・脂質異常・2型糖尿病などの生活習慣病である。そして、日本人の死因の約6割にこの生活習慣病が関わっており、その治療費が医療費全体の約3割を占めている。
日本の医療制度を考えるとき、質、アクセス、費用の3点が重要な鍵となる。第1回では、「質を上げ費用を下げる」医療を、第2回では、「アクセス制限で質を上げる」医療を紹介した。今回は、生活習慣病をテーマに「予防によって費用を下げる」医療制度を取り上げる。
まず、そもそも生活習慣病の予防を進めることによってトータルの医療費を下げることは可能なのか。確かに、健康増進や生活習慣病予防の実践による医療費抑制は即効性には乏しい。
しかし生活習慣病の症状進行に伴い治療費は増加するため、有効な対策が遅くなればなるほど医療費は増加する。そのため、中長期的に見ると、こうした予防には医療費増加抑制の効果があると期待される。
現在の医療制度は疾病構造とミスマッチ
現在の国民皆保険制度が創設された1961年頃の疾病構造を見てみよう。当時の平均寿命は65歳超、最も多く蔓延していた病気は結核であり、栄養不足で病気になる人が多かった。
しかし、その後50年の高度経済成長、医学の進歩、医療技術の発展により現在の男女の平均寿命は83歳まで伸びた。その結果疾病構造は変化し、結核などの感染症の問題は影を潜め、栄養不足に代わって生活習慣病が大きな問題となっている。
生活習慣病は、環境因子、特に、食べ過ぎ、飲み過ぎ、偏食、運動不足、喫煙などの生活習慣が、その発症や進行に大きく関わる病気である。
運動や食生活など個人の心がけによってある程度予防できるのであれば、不摂生・暴飲暴食を続けて生活習慣病になった人の医療費患者負担率と、努力して生活習慣病の発症を遅らせた人の負担率とが同じ3割では不公平ではないだろうか。
国民皆保険が導入された当時と比べ疾病構造は大きく変化し、努力次第で予防可能な疾病が増加しているにもかかわらず、依然としてどの病気についても医療費の患者負担率が同じであり、現在の疾病構造と医療制度にミスマッチが生じている。