法政大学とアイエヌジー生命は、社員のモチベーションを高める中小企業の施策や、その具体的な取り組み事例について、2008年より共同で調査研究を行ってきた。
調査研究の結果は、2009年に書籍の『なぜこの会社はモチベーションが高いのか』(坂本光司著、商業界)、および『中堅・中小企業の社員の勤労意欲を高める方策等に関する調査研究』という冊子にまとめられた。
実際に高い成果を挙げている企業を訪れて行ったこの調査研究は、実践的であると同時に普遍性が高く、古びることのない内容である。そこでJBpressでは、法政大学およびアイエヌジー生命の協力を得て、冊子に収められた事例を順次転載していく(*)。
今回は北海道で農園を営む「ファーム富田」である。

 ファーム富田(北海道・中富良野町)は現在はラベンダーを中心とした香粧品(香水、オイルなど)の製造業を営んでいるが、以前はラベンダー事業を行っておらず、農業(稲作)を行っていた。

 1903年に創業者である富田徳馬(富田均社長の曾祖父)が北海道中富良野にて稲作を始める。その後、富田忠雄(富田均社長の父)が、農業に希望を見出せず将来を模索していた時期にラベンダーと出合う。58年にラベンダー栽培を始め、ラベンダーオイルの生産を手がけるようになり、生産量も増加の一途をたどっていた。

 しかし、70年代になると、合成香料の急激な技術進歩と貿易の自由化による安価な輸入香料の台頭により、国内のラベンダーオイルの価格が下がり、その後、香料会社がラベンダーオイルの買い上げを中止し、ラベンダー栽培業者のほとんどが姿を消していった。

 ファーム富田は稲作で生計を立てながらも、なんとかラベンダーを栽培し続ける道はないかと模索しながらの経営が続いた。

国鉄のカレンダーに掲載されたラベンダー畑

 その後、転機が訪れる。76年に国鉄(日本国有鉄道)のカレンダーにファーム富田のラベンダー畑が掲載され、話題を呼び、多くの観光客が訪れるようになった。

 しかし、香料作物としてのラベンダー栽培は限界がきていたため、訪れる観光客に対し、匂い袋などの商品を製造し、販売することでラベンダー栽培を継続していくことを考案した。

 その後、香水や石鹸など、商品は多数増え、ラベンダー畑も15ヘクタールになるまで大きくなり、今でもラベンダーの開花時期になると多くの観光客が訪れている。

 ファーム富田はラベンダー関連事業が中心となっているため、ラベンダーの開花時期に業務が集中している。そのため、通常時は正社員30人ほどで運営しているが、繁忙期になるとパート、アルバイトを100人ほど雇うことで、業務量のバラツキを調整している。

 上記記述からも分かる通り、経営者の思いはラベンダー栽培を継続したいこと、綺麗なラベンダー畑を多くの人に見てもらいたいことであり、すべてはその思いから成り立っている。

 事実、ラベンダー畑の観覧に際し、観光客から料金を一切取らず(駐車場代も取っていない)、より多くの観光客に来てもらうような施策を採っている。