法政大学とアイエヌジー生命は、社員のモチベーションを高める中小企業の施策や、その具体的な取り組み事例について、2008年より共同で調査研究を行ってきた。
調査研究の結果は、2009年に書籍の『なぜこの会社はモチベーションが高いのか』(坂本光司著、商業界)、および『中堅・中小企業の社員の勤労意欲を高める方策等に関する調査研究』という冊子にまとめられた。
実際に高い成果を挙げている企業を訪れて行ったこの調査研究は、実践的であると同時に普遍性が高く、古びることのない内容である。そこでJBpressでは、法政大学およびアイエヌジー生命の協力を得て、冊子に収められた事例を順次転載していく(*)。
今回は新潟県三条市でパン製造・販売を営む松屋商店である。
元々は3代続いた明治創業の老舗「和菓子屋」であったが、4代目である現社長(丸山治雄氏)は、和菓子・洋菓子・パンと修業を重ねた末に、パン屋に業態転換した。
親からは「自分の好きなことをやりなさい」と言われた4代目は、各地各店を修業で渡り歩いた末に行き着いた「日常的に買いに来てもらえるものを作りたい」「お客様からの評価や反応が毎日ダイレクトに返ってくる仕事がしたい」という思いから、業態転換を決意したのである。
また、「良いパン屋のある町は、良い町だ」という思いが丸山社長にはあり、「この町の良いパン屋になりたい」と考えての決断でもあった。
「地域の人に喜んでもらう」というビジョンを掲げた同社は、決して都会ではない周辺地域の状況を考え、おじいちゃん、おばあちゃんに喜んで食べてもらえるパンの製造を目指したのである。
食べるのが大変な、固い高級パンは対象から外れ、手頃な価格で買えて、美味しいパンを目指す中で、焼きたてのパンの美味しさや、焼きたてを買う楽しさを味わってもらうことに気付く。
そこで、「焼きたて」「揚げたて」「作りたて」の「3タテ」にこだわり、同じ商品を1日に何度でも作り続ける、最低でも3回転させる現在のスタイルが生まれた。
難易度を下げて社員のモチベーションをアップ
各店舗の運営をかなり社員に権限委譲している同社には、やる気を高める施策も多い。
まず、社長にしか焼けないような難易度の高いパンよりも、難易度を下げて平均的にレベルの高いパンを出すことが社員のモチベーションアップにもつながっている。
パン屋に就職した社員たちは、パンが好きで集まって来るのである。難易度を下げることによって、若い社員たちもパンの製造に携わることができるため、意欲が高まる効果がある。