法政大学とアイエヌジー生命は、社員のモチベーションを高める中小企業の施策や、その具体的な取り組み事例について、2008年より共同で調査研究を行ってきた。
調査研究の結果は、2009年に書籍の『なぜこの会社はモチベーションが高いのか』(坂本光司著、商業界)、および『中堅・中小企業の社員の勤労意欲を高める方策等に関する調査研究』という冊子にまとめられた。
実際に高い成果を挙げている企業を訪れて行ったこの調査研究は、実践的であると同時に普遍性が高く、古びることのない内容である。そこでJBpressでは、法政大学およびアイエヌジー生命の協力を得て、冊子に収められた事例を順次転載していく(*)。
今回は新潟県加茂市で衣料品・生活雑貨の通信販売を行う山忠である。

 山忠(新潟県加茂市)は1958年、兄弟4人で1台の靴下編み機を購入したところからスタートし、問屋に出さず、自分たちで直接お客様に販売する行商スタイルで靴下を販売した。お客様が満足してくれない時には何度でも伺って話を聞き、商品の改良・改善を繰り返してきた。

 同社は、お客様の声の中からヒントを得たオリジナルの商品開発だけではなく、婦人会という販売ルートの開拓によって売上を飛躍的に伸ばした。その後の低迷期を経て、販売ルートをカタログ販売へと切り替える。

 「山忠は、お客様の『お悩み』や『お困りごと』を解消する『お役立ち』こそが事業領域」という考えの下、現在では「お悩み解消とお役立ち」をテーマとして、靴下をはじめ衣料・生活雑貨などを全国へカタログ通販で販売する会社となっている。

社員の配偶者、母親にバースデーケーキ

 社員のやる気を高めるための施策として、「何のために会社に来るか、の研修」と「社員個人にスポットライトを当てる仕組み」「バースデーケーキ」が挙げられる。

 まず、同社では新入社員が入ってくると、社長自ら講師となって1日研修を実施している。「皆さんは何のために会社に来るのですか?」という質問を向け、会社に来る「意味」を明確にしている。

 この研修を通して、会社で働くことは、生活の糧となる給料をもらうだけではなく、他者への気配りや思いやり、忍耐など人格面での鍛錬にもなることを最初に理解してもらっている。

 その上で、結婚やマイホームなどの身近な夢の話を例に出して、社員一人ひとりが構想力を養い、自分自身の中期計画を立てられるようになってもらいたい、という思いを伝えている。

 また、毎年2月に経営計画発表会があり、部門ごとに重点目標や収益計画を発表するのだが、その発表会の司会には、およそ司会などするタイプではない社員が指名される。

 指名されてから社長と一緒に練習するのだが、社員は無事に司会できるかどうかが気になり、自然と参加意識が出てくる。また、司会者を務めることで今までの自分から一歩前進し、成長を遂げることができるのである。

 さらに、同社の給与明細には、毎月、社内報が挟んである。社内報には、毎回社内の違う人を写真に撮って掲載している。今月は誰が出ているのか、社員同士で話題になるそうである。

 同社では69年頃から社員の定期採用が始まった。当時は採用が決まると、社長が手土産を持って自宅に挨拶に伺っていた。

 この「社員は家族と同じだから」という発想が今でも根付いている。社員の配偶者の誕生日(配偶者がいない人の場合は母親の誕生日)には、ケーキと感謝の手紙が手渡されるのである。家族にも配慮するこの企画は既に30年以上も続けられている。

社長研修のフォローアップが課題

 同社での研修の多くは、プロの外部コンサルを招いて頼むこととしている。そのため、入社時に行う社長研修のフォローアップをどう行うかが、今後の課題となっている。

 同社は今後も創業時の行商の精神を忘れず、お客様のご要望に応えられる「ハイテク行商」として成長していきたいという。

【企業概要】
会社名:株式会社 山忠
本社所在地:新潟県加茂市下条甲496-1
代表者名:中林 功一
業種:通信販売業、靴下製造業
創業年:1958年9月
従業員数:約100名

(*)本記事は、『中堅・中小企業の社員の勤労意欲を高める方策等に関する調査研究』から転載するに当たり、記載内容に影響のない範囲で、JBpressが表記の統一や表現の修正など一部編集作業を加えたものです。