黒川清・日本医療政策機構代表理事監修
「医療制度や医療費負担の平等性に6割超が不満」「約7割が将来の医療制度に不安」これは、今年7月初めに出された世論調査の結果である。
日本の国民皆保険制度は1961年以来、ほぼ創設当時のままの質・アクセス・費用を保証しながら医療サービスを提供してきた。制度は世界でも高く評価されてきたと言われているが、この調査では、そうした評価と国民の意識の間に大きな乖離が見られることが分かった。
過去50年間で日本社会は大きく変化した。医学と医療技術は発展し、社会インフラのIT化が進んで国民は国内外の情報にアクセスできるようになった。また、4人に1人が65歳以上の高齢社会となり、日本人の疾病構造は感染症から生活習慣病を中心とするものに変わった。
一方で、高度経済成長は終焉して久しく、日本は限られた財的・人的資源の中でいかにして医療と介護サービスを提供するかを真剣に考えていかなければいけない。
こうした社会と医療ニーズの変化にもかかわらず、制度が実情に合わせた対応に遅れたため、国民の不安は広がり、いま様々な弊害を見せている。このような局面を他の先進国も迎えている。
本シリーズでは、国民の不安、膨れ上がる医療費、財源の不足、医師の偏在化など多くの課題を抱える日本の医療について、いま何を、国民の目線で、どう議論していくべきなのかを軸に、持続可能な医療制度の再設計とその実行策を提言していきたい。
国民の健康データは誰のもの?
「複数の病院や診療科で何度も同じ検査を受けた。時間もお金も使うが、病院から言われたのだからしょうがない・・・」。こんな経験をお持ちではないだろうか。
現在、患者のデータは診療した医療機関のみが保有しており、そのデータが他の医療機関に共有されることは稀である。
例えば、具合が悪くて足を運んだ自宅近くの診療所でCT(コンピュータ断層診断装置)検査を受け、「専門的な検査がさらに必要です」ということで地域の中核病院を紹介され、そこで改めてCTを撮るなど、二重、三重の“無駄な”検査が行われているのが実態である。
総務省によると重複検査・投薬の割合は総医療費26.7兆円の7.5%、つまり年間およそ2兆円と推計されている。
こうした状況を改善するためには、 医療機関の間で情報が共有されることが求められるが、医療分野には利害の異なる者もいて、医療基盤や情報のフローを大きく変えるような試みはなかなか実現に至らなかった。