日本では今、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)についての論議が盛んだが、ドイツはTTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)だ。TTIPというのは、一言でいえば、米国とEUが力を合わせることによって、アジアに対抗できる安定市場を作り上げようという試みである。

 EUと米国が共同で完成させなければいけない最終報告書が、様々な意見の違いでなかなか出来上がらず、交渉開始がずれこんでいたが、このたびようやく完成し、7月8日に第1回目の交渉が開始された。

ドイツでも賛否が分かれる米国とEUの貿易投資パートナーシップ

安倍首相に「恥を知れ」、都内で反TPPデモ

都内で行われた反TPP集会(2013年5月25日撮影)〔AFPBB News

 TTIPの中身はTPPと似ていて、新しい貿易ルールを作り、経済成長と物価安定、そして、雇用の伸長を図ろうというもの。この構想が実現すれば、世界で最大の市場が形成されることになる。

 もっとも、交渉が長くかかるだろうことは予想されており、最後に決裂する恐れも少なくない。その理由は、まず、EU内部の意見調整が難しいと思われるからだ。

 それだけではない。ドイツの国内でも、賛否は大きく分かれている。

 EUと米国の間の交易は、すでに今、毎日20億ユーロ。ただ、現在は多くの物品に5%から7%の関税がかかっているので、それがなくなるだけでも、交易にもう一度、弾みがつく可能性は高い。

 そのうえ、関税外障壁もたくさんある。例えば、いろいろな規制の中身が異なること。規格基準や安全基準も違えば、企業間の競争に関する法律も違う。

 これらの障壁が取り除かれたら、交易は爆発的に伸び、経済と雇用に素晴らしい効果を及ぼすだろうというのが、TTIP賛成派の意見だ。国民の税金を一銭も使わずに、経済成長が図れれば、政府にとってもこれほど有難い話はない。

 というわけで、ドイツでは、政府や経済技術省、そして当然、産業界が、TTIPに大きな望みを託している。

 しかし、反対意見も多い。それどころか、実は、まだドイツ政府の内部も一枚岩ではない。農業・消費大臣は、TTIPに懸念を表明している。理由は、消費者の安全が保障できないからというものだ。