はじめに

 零細・小規模企業には、起業家精神を体現する存在としてメディアの関心が集まることが多く、様々な政策的支援も行われている。こうした傾向は、日本でも他の先進国と同様に見られる。一方、大企業は自らの成功と影響力を活かしてメディア露出の機会を多く作り出すとともに、主要産業団体や業界内外で大きな発言力を発揮している。

 その狭間にある中堅企業の存在は、ともすれば見過ごされてしまうのが現状だ。しかし日本の中堅企業は、労働人口の約4分の1を雇用し、総売上高の約3分の1を占めるなど、きわめて重要な経済的役割を果たしている。

 本報告書では、中堅企業の定義を世界全体で10億円から1000億円の年間売上高を持つ企業と定めた。これは、企業の経済活動や産業構造等に関する最新の公的データや、約130万社を対象とした民間データベースなど、様々な情報の分析を行った結果定められたものだ。またこの定義は、ヨーロッパ諸国や米国で主に用いられているものと大枠で一致している(相当する収益額を日本円に換算した場合)*1

 年商10億~1000億円という範囲には、日本経済の将来を左右する様々な業種や事業形態の企業が存在している。規模が比較的小さな中堅企業の中には、様々な産業で最先端の取り組みを行う革新的な急成長企業が含まれている(個人事業主や家族経営のサービス企業など、日本に数多く見られる零細企業は対象外)。若い起業家が経営するリブセンスやオイシックスなどの新興企業はその一例だ。

 また比較的規模の大きな中堅企業の中には、ハニーズやナカシマプロペラなど、各業界で主導的なポジションを確立している企業も少なくない。本報告書では、こうした企業が日本経済の中で果たす役割、直面する課題、将来的に大企業となる可能性といった点について検証を行う。

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国際的にも高いレベルの生産性

 日本の中堅企業が全企業数に占める割合は、2.1%と比較的少数だ。しかし総従業員数の4分の1以上、そして総売上高の約3分の1を占めるなど、日本経済の中できわめて重要な役割を果たしている(表1.1~1.3参照)。

 主要先進国と比較すると、中堅企業の従業員が労働人口に占める割合は若干低い(大企業が持つ圧倒的な雇用能力が影響を及ぼしていることは想像に難くない)。だが興味深いのは、生産性つまり従業員1人あたりの売上高が、他の先進国より優れている点だ(表1.4参照)。

 

*1=この定義を用いた研究の例としては下記の2つが挙げられる:US middle-market firms and the global marketplace, Economist Intelligence Unit, 2012, The Mighty Middle: Why Europe’s Future Rests on its Middle-market Companies, and Leading from the Middle, The Untold Story of British Business, GE/Essec Business School, 2012.