中国が日本と米国に対し、これまでの規範を破る果敢な海洋戦略を打ち出してきた。いずれも国連海洋法条約が決めた「排他的経済水域(EEZ)」に関連する合意を一方的に破棄するもので、勝手放題とも言える動きである。
日米両国へのこの動きは別個ではあるが、中国の習近平新政権下で海洋主権の大幅な拡大を目論むという点では共通している。日米両国との関係を一段と緊迫させることにもなりそうだ。
一方的に「合意」を破った中国
まず日本と中国との関わりでは、7月上旬、中国が東シナ海で新たなガス田開発を始めたことが波紋を広げた。EEZの日中境界線が確定するまでは日本も中国も一方的にこの種の事業は実行しないことを互いに合意していた海域での出来事である。日本側は安倍晋三首相らが「中国は合意に違反した」としてすでに抗議した。
排他的経済水域、つまりEEZとは、1994年発効の国連海洋法条約で各国沿岸から200海里の範囲内で沿岸国の経済開発の主権を認めた水域である。
ただし中国は、200海里だけでなく自国沿岸から海底を伸びる大陸棚の末端までをも自国のEEZだと一方的に宣言してきた。その結果、日本側が単に自国の沿岸から200海里のEEZを主張するのに対し、中国側は大陸棚が伸びているという沖縄付近までの水域を中国のEEZだと宣言して対立してきた。
そこで日中両国はやむなく暫定の措置として両国からの等距離の海域に中間線を引き、当面のEEZの境界線とした。そして「中間線付近の経済開発は日中両国の共同で進める」という合意を2008年に成立させたのだった。
ところが中国はここにきて、その合意を破る形で中間線至近の海域でガス田の開発を一方的に始めたというのである。日本では政府だけでなく、産経新聞、朝日新聞、読売新聞といったメディアも一斉に中国の合意破りを非難し、社説で「ガス田開発 中国は合意に立ち返れ」(朝日、7月7日)、「中国とガス田 一方的な開発は認められない」(読売、7月9日)と批判した。
中国のこうした動きの背後に浮かぶのは、海洋戦略の野心的かつ攻勢的な膨張、そして日本への敵対姿勢である。