音楽は国境を超える、とはよく言われること。けれど、あの独特な音色を放つ日本の楽器、三味線は西洋の人たちに受け入れられるのだろうか。
和の文化への関心が年々高まっているヨーロッパでそんなことをずっと考えていたある日、風の噂で「すごい三味線奏者がいる」と耳にした。
パリと日本に拠点を置いて活動を広げる大野敬正(おおの・けいしょう)だ。今年3月末、大野はヨーロッパでアルバム2作を同時リリースした。
北はスウェーデン、南はギリシャ、西はポルトガル、東はルーマニアと、ヨーロッパ縦断・横断ツアーも開催して、三味線の魅力をより多くの人に伝えている。三味線の歴史で、こんなにも地道にヨーロッパで活動をしてきた奏者はかつていなかった。パリで、その人となりにぐっと迫ってみた。(文中敬称略)
点の活動ではなく、線の活動で三味線を知ってもらう
大野は現在37歳。いま、1年の約半分をヨーロッパで過ごし演奏に励んでいる。
大野は、14歳にして津軽三味線の大家、初代・高橋竹山に認められ、「竹山節本流継承者」となった正真正銘の津軽三味線奏者だ。20代後半から津軽三味線による活動を本格的に開始し、日本でアルバムを作ったり、テレビやラジオに出演したり、舞台音楽を担当したりしていた。
そして2006年に全米ツアーを行い、2008年にはヨーロッパでも2か国7公演のツアーを実施した。伝統的な曲だけでなく、シンセサイザーやドラムを組み合わせた現代風の曲も披露。反響が高く、もっと海外で活動してみたいという興味がわき上がった。
「津軽三味線は海外でも受け入れられそうだと手ごたえを感じました。アメリカとヨーロッパで演奏してみて、どちらもとても楽しかったです。でも土台を日本において、アメリカでもヨーロッパでも活動したら、すべてがおろそかになってしまう。それで、自分にとってしっくりと感じたヨーロッパを選んだのです。
アメリカはアメリカンドリームと言われるように、膨大な数のファンを持てる可能性はあります。でもコンサートでのヨーロッパの人たちの反応が日本の人たちの反応に似ていて、それが心地よくて自然とヨーロッパに向いた感じがします。
ヨーロッパはクラシック音楽が生まれた場所です。いろいろな音楽を受け入れる土壌ができている、演奏をしっかりと聞いてくれるという印象を持ちました。僕はコンサートで相当派手な動きもします。おそらく僕ほど豪快に弾いて、目でも楽しんでもらおうという奏者はいないと思います。でも僕の三味線は単なるエンターテインメントではありません。伝統を守りながら発展させている音楽なのです」